2024.10.25 12:53形式ではなく実質が大事 学生時代にある弁護士さんから聞いた話だが、交通事故の加害者から依頼を受けた場合に、すぐに書類を作成して、お見舞いの品を持って病院へ向かい、平身低頭でお見舞いの口上を述べるそうだ。 被害者が打ち解けて和やかな雰囲気になった頃を見計らって、持参した書類を手渡し、お見舞いに来た証しにサインしてくださいませんか、と口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)でお願いするそうだ。 その際、持参した書類のタイトルが「和解契約」や「示談書」というような法的なものを匂わせるものだと、被害者が警戒して、サインをしてくれないので、実際の中身は和解契約(民法第695条)だけど、「お見舞い」というタイトルにして、和解条項を小さい文字で書いたものにサインを求めると、あまり中身を...
2024.09.27 03:50法律に息づく孔子の教え 日本の法律に孔子の教えが息づいていると言ったら、驚かれるかもしれない。『論語』子路篇第十三に大変有名な章句がある。ここに示された孔子の教えが様々な法律に反映しているのだ。【原文】葉公語孔子曰、吾黨有直躬者、其父攘羊、而子證之。孔子曰、吾黨之直者異於是、父爲子隱、子爲父隱、直在其中矣。【読み下し文】葉公(しょうこう)孔子(こうし)に語(つ)げて曰(いわ)く、吾(わ)が黨(とう)に躬(み)を直(なお)くする者(もの)有(あ)り、其(そ)の父(ちち)羊(ひつじ)を攘(ぬす)み、而(しこう)して子(こ)之(これ)を證(しょう)す。孔子(こうし)曰(いわ)く、吾(わ)が黨(とう)の直(なお)き者(もの)は是(これ)に異(こと)なり、父(ちち)は子(こ)の爲(た...
2024.03.12 03:20dead law <追記> 昼間、テレビをつけたら、the Ravenmasterレイヴンマスターが新しい人になった旨が報道されていた。 レイヴンマスターというのは、ロンドン塔を警護する衛兵の中でカラス(ravenは、crowよりも一回り大きなカラス)の世話をする役職の人をいう。 昔、国王チャールズ2世(1630年5月29日 - 1685年2月6日)は、ロンドン塔に住み着いた野生のカラスを駆除しようとしたが、占い師が「カラスがいなくなるとロンドン塔が崩壊し、ロンドン塔を失えばブリテン王国が滅びる」と言うので、カラスを飼うことにし、「ロンドン塔のカラスの数を常に6羽以下にしてはならない」と命令し、ロンドン塔の警護にあたる衛兵が7 羽のカラス (王令による 6 羽と予備の 1 羽)...
2024.02.16 23:10なぜprescriptionが「時効」を意味するのか 「時効」とは、「ある事実上の状態が一定期間継続した場合に、真実の権利関係にかかわらず、その継続してきた事実関係を尊重して、これに法律効果を与え、権利の取得又は消滅の効果を生じさせる制度」をいう(内閣法制局法令用語研究会編『有斐閣法律用語辞典』)。 長く続く事実状態をそのままにしておく方が社会秩序を維持する上で妥当であると同時に、時が経てば争いある法律関係を明確にする証拠がなくなることが多く、さらにまた権利を有しながら長い期間これを行使しない者は、権利の上に眠れる者だから、保護に値しない。 そこで、「時効」が認められている。 この「時効」は、prescriptionの翻訳語なのだが、そもそもなぜprescriptionが「時効」を意味するのだろうか。 ...
2021.10.25 01:46後出しじゃんけん条例 「後出しじゃんけん」とは、「じゃんけんで相手の手を見てから自分の手を出すこと。後出しはじゃんけんにおける主な反則行為。転じて、相手の出方を把握してそれに対応するアンフェアなやり方。」をいう( 『実用日本語表現辞典』)。 法律の世界にも、後出しじゃんけんに相当する原則がある。事後法の禁止だ。事後法の禁止とは、新たに制定された法律(事後法)は、その制定以前にさかのぼって適用してはならないという原則をいう。法律不遡及(ふそきゅう)の原則ともいう。 例えば、手数料 を値上げするため手数料条例を改正し、これを過去に遡(さかのぼ)って適用すると、過去の手数料について差額分を追加徴収 する必要が生じて住民の信頼を裏切ることになるように、法的...
2021.09.29 23:36「保証」と「保障」1 法律学における「保証」と「保障」 法律学を学び始めた頃に戸惑った言葉の一つが「保証」と「保障」だ。 「保証」とは、一定の債務が履行されない場合に、その債務を主たる債務者に代わって履行する義務を負うことをいう(ex.民法第446条第1項)。cf.1民法(明治二十九年法律第八十九号)(保証人の責任等) 第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。 これに対して、「保障」とは、相手方の地位、立場、権利利益等に保護を...
2021.09.12 20:00けだし(蓋し)1 面食らった言葉 法律学を学び始めて面食らった言葉の一つに「けだし(蓋し)」がある。当時の法律学の教科書、論文、判決文には、「けだし(蓋し)」が多用されていた。 この言葉は、古来より、日本でも支那(しな。chinaの地理的呼称。)でも推測・推定を表す言葉として用いられてきたのに、法律学では「なぜならば」という意味で用いられていたから、戸惑ったのだ。 「法律学において、けだし(蓋し)とは、なぜならばという意味である」と教えられたわけでもなければ、書物に書いてあるわけでもないのだが、前後の文脈から「なぜならば」と同義だと解さざるを得なかった。 そこで、国語辞典を引いてみるのだが、「けだし(蓋し)」に「なぜならば」という意味はない。各種法律用語辞典も引いて...
2021.04.26 09:20江戸時代の民事裁判 <追記あり> 江戸時代の民事裁判の概要については、すでにこのブログで触れた。昔の教え子から、もう少し知りたいというメールがあった。教師の職業病で、こういうリアクションがあると妙に張り切ってしまうのだが(苦笑)、ご要望に応えてお話ししようと思う。一部重複する部分があるが、ご容赦願いたい。
2021.04.23 23:24江戸と大坂の債権回収の違い 私人(民間人のこと。)の場合には、債権を行使するかどうか(ex.借金を返せと請求するかどうか)は、自由だ。 これに対して、地方公共団体の長は、金銭の給付を目的とする地方 公共団体の債権について、その督促、強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置をとらなければならないとされている(地方自治法第 240 条第 2 項、地方自治法施行令第 171 条~第 171 条の 4)。逃げ得を許さず、必ず取り立てる必要があるからだ。 しかし、実際には、地方公共団体は、債権回収に必ずしも熱心ではなかった。地方公共団体の長(知事・市町村長)が債権回収に積極的に取り組んでも、必ずしも票に結び付かないし、むしろ厳しい取り立てをすると、不評を買って落選する可能性もある...
2021.03.01 07:00脱法行為とは異なる「除法行為」?1 脱法行為って何? 例えば、利息制限法の制限を超過した高利を得ようとして、利息以外の名目を用いたり、恩給法の禁止する恩給の譲渡や担保設定を脱がれるために、恩給取立てを委任してその恩給を借金の返済に充て、完済するまでその委任契約を解除しない旨を約束したりする行為を脱法行為(だっぽうこうい)という。 脱法行為の定義については、労働法がご専門の津曲蔵之丞(つまがり くらのじょう)教授は、脱法行為を次のように定義なさっており(『民事法学辞典』有斐閣)、他の法律学辞典も同様の定義をしていることから、これが通説だと思われる。 脱法行為とは、「広義においては法令の禁止規定を潜脱する行為をいい、狭義においては強行法規の禁止を潜脱する行為をいう。潜脱するとは、法が禁止...
2020.11.24 00:20内閣府令と省令 内閣府令(「府令」と略して呼ばれることがある。)と省令との効力関係について、言及している文献が意外に少ない。 ①民法がご専門の道垣内弘人(どうがきうち ひろと)東京大学大学院教授は、「命令の中では、政令>府令>省令>規則の順になりますが、公正取引委員会規則、会計検査院規則、人事院規則など、省庁からの独立性の高い行政委員会の規則は、法律に次ぐことになっています。」と明言なさっている(『プレップ 法学を学ぶ前に』弘文堂60頁)。 この①説に従えば、内閣府令と省令が矛盾する場合には、「上位法は下位法に勝る」が妥当することになる。 これに対して、②衆議院法制局職員等で構成された法制執務用語研究会は、「この府令と省令の効力は同格で、上下関係にはありません。」と...