法令の中のくじ引き

 昨日は、太子町の万葉ホールにて開催された、河南町・太子町・千早赤阪村研修協議会主催の地方自治法研修に初めて出講した。

 阿倍野から近鉄に乗って喜志駅下車。行き帰りともにタクシーを拾えず、金剛バスに乗った。対向車と道を譲り合いながら細く曲がりくねった道をゆっくり進むと、バス停に用明天皇陵、推古天皇陵、敏達天皇陵、聖徳太子墓などが次々と登場して、びっくり仰天し、テンション・マックスになった。

 難波宮から見て、奈良県明日香村が「遠つ飛鳥(大和飛鳥)」と呼ばれるのに対して、「近(ちか)つ飛鳥(河内飛鳥)」と呼ばれる大阪府太子町には、孝徳天皇陵や小野妹子墓もあるそうだ。

 教科書に出てくる有名な古代人の事績は、多少は知っているつもりだったが、お墓の所在地には興味がなく、知らなかった。「ボーっと生きてんじゃねえよ!」とチコちゃんに叱られそう!苦笑


 古代への想いに浸ったついでに、今回は、くじ引きについて述べようと思う。


 元来、くじは、「みくじ」と言って、神前においてくじを引いて、神のお告げを聴く神事だった。神に訊ねる内容は、吉凶、勝敗、順番、人選など様々だ。


 文献上、くじに関する最も古い記述は、『日本書紀』斉明天皇紀にある「短籍(ひねりぶみ)」と呼ばれる短い紙片で作ったくじだ。


 すなわち、「或本云、有間皇子、與蘇我臣赤兄・鹽屋連小戈・守君大石・坂合部連藥、取短籍卜謀反之事。」(ある本によると、有間皇子(ありまのみこ)は、蘇我赤兄(そがのあかえ)、塩屋連小才(しおやのむらじをほこ)、守君大石(もりのきみおおいわ)、坂合部連薬(さかいべのむらじくすり)と、短籍(ひねりぶみ)を取りて、謀反(むほん)のことを占ってみた、という。)とある。


 科学万能の現代においても、多くの法令がくじを用いていると言うと、驚かれる方が多いかも知れない。

 下記に自治体職員さんに馴染み深い法令のうち、くじを用いている主なものを列挙しておく。


 このように神事に由来するくじを用いている法令が、憲法が定める政教分離の原則に違反するかどうかが一応問題になり得るが、最高裁が採っている目的・効果基準に従えば、違反しないことになろう。


 政教分離の原則に違反しないとはいえ、参議院規則第20条第3項ただし書及び衆議院規則第18条・第8条第2項により、内閣総理大臣の指名がくじで決まるというのは、神秘的ですらある。

 くじ運が強くなければ、総理になれないのだが、これまでくじで総理の指名が決まった例はない。

 

cf.1地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)

第百五十二条 普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。この場合において副知事又は副市町村長が二人以上あるときは、あらかじめ当該普通地方公共団体の長が定めた順序、又はその定めがないときは席次の上下により、席次の上下が明らかでないときは年齢の多少により、年齢が同じであるときはくじにより定めた順序で、その職務を代理する。

(以下、省略:久保)


cf.2地方自治法施行令(昭和二十二年政令第十六号)

第百三十四条 地方自治法第百八十二条第一項又は第二項の規定により、選挙管理委員又は補充員の選挙を行つた場合において、当選人で同一の政党その他の政治団体に属するものが二人以上あるときは、その者の中から、得票数により、得票数が同じであるときはくじにより、委員又は補充員たるべき者を定めなければならない。

(以下、省略:久保)

第百三十六条の二 第百三十四条第一項、第百三十五条第一項又は前条第一項の規定に該当する場合のほか、選挙管理委員又は補充員の中同一の政党その他の政治団体に属する者がそれぞれ二人以上となつた場合においては、選挙管理委員会は、くじにより、それらの者の中からそれぞれ選挙管理委員又は補充員の職を失うこととなる者を定めなければならない。

(一般競争入札のくじによる落札者の決定)

第百六十七条の九 普通地方公共団体の長は、落札となるべき同価の入札をした者が二人以上あるときは、直ちに、当該入札者にくじを引かせて落札者を定めなければならない。この場合において、当該入札者のうちくじを引かない者があるときは、これに代えて、当該入札事務に関係のない職員にくじを引かせるものとする


cf.3地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)

附則

(経過規定)

5 最初に選任される人事委員会又は公平委員会の委員の任期は、第九条の二第十項本文の規定にかかわらず、一人は四年、一人は三年、一人は二年とする。この場合において、各委員の任期は、地方公共団体の長がくじで定める


cf.4参議院規則(昭和22年6月28日議決)

第20条 内閣総理大臣の指名は、単記記名投票でこれを行う。

 投票の過半数を得た者を指名された者とする。

 投票の過半数を得た者がないときは、投票の最多数を得た者二人について決選投票を行い、多数を得た者を指名された者とする。但し、得票数が同じときは、決選投票を行わなければならない二人又は指名される者を、くじで定める

 議院は、投票によらないで、動議その他の方法により指名することができる。


cf.5衆議院規則(昭和二十二年六月二十八日議決)

第八条 投票の過半数を得た者を当選人とする。

2 投票の過半数を得た者がないときは、投票の最多数を得た者二人について決選投票を行い、多数を得た者を当選人とする。但し、決選投票を行うべき二人及び当選人を定めるに当り得票数が同じときは、くじでこれを定める

第十八条 内閣総理大臣の指名については、記名投票で指名される者を定める。

2 投票の過半数を得た者を指名される者とし、その者について指名の議決があつたものとする。

3 投票の過半数を得た者がないときは、第八条第二項の規定を準用して指名される者を定め、その者について指名の議決があつたものとする。

4 議院は、投票によらないで、動議その他の方法により、指名することができる。




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