内閣府令と省令

 内閣府令(「府令」と略して呼ばれることがある。)と省令との効力関係について、言及している文献が意外に少ない。


 ①民法がご専門の道垣内弘人(どうがきうち ひろと)東京大学大学院教授は、

「命令の中では、政令>府令>省令>規則の順になりますが、公正取引委員会規則、会計検査院規則、人事院規則など、省庁からの独立性の高い行政委員会の規則は、法律に次ぐことになっています。」

と明言なさっている(『プレップ 法学を学ぶ前に』弘文堂60頁)。

 この①説に従えば、内閣府令と省令が矛盾する場合には、「上位法は下位法に勝る」が妥当することになる。


 これに対して、②衆議院法制局職員等で構成された法制執務用語研究会は、

「この府令と省令の効力は同格で、上下関係にはありません。」

と明言なさっている(『条文の読み方』有斐閣002頁)。

 この②説に従えば、内閣府令と省令が矛盾する場合には、「後法は前法に優先する」が妥当することになる。


 さて、どちらが正しいのだろうか?


 内閣総理大臣は、内閣の首長であり(憲法第66条第1項)、行政各部を指揮監督する権限を有することから(憲法第72条)、内閣総理大臣を長とする内閣府は、行政組織法上、各省庁よりも格上であることは明らかだ。

 道垣内教授は、この点を重視して、①説を主張なさっているのかも知れない。

https://www.cao.go.jp/about/doc/mokuji.pdf

 内閣府は、複雑な組織なので、少し長いが、補足説明として、参議院内閣委員会調査室の瀬戸山順一氏の論文の一部を引用させていただく。

「内閣府は、内閣官房の総合戦略機能を助ける「知恵の場」としての機能を果たすとともに、行政事務を分担管理する各省より一段高い立場から企画立案・総合調整等を行う、内閣総理大臣を長とする機関として、内閣府設置法(平成11年法律第89号)に基づき内閣に設置された。このような性格から、内閣府については国家行政組織法(昭和23年法律第120号)の適用除外とされている。具体的には、①内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けること(内閣補助事務)、②内閣総理大臣が管理するにふさわしい行政事務を処理すること(分担管理事務)を任務とし、内閣総理大臣、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(後述)等の下、1官房3局8政策統括官等により構成される。 また、内閣の重要政策に関する企画立案・総合調整を強力かつ迅速に行うため、関係行政機関の長に対する勧告権、内閣総理大臣に対する意見具申権等の強い調整権限を持つ特命担当大臣を内閣総理大臣の判断で内閣府に限って置くことができるとともに、「知恵の場」としての機能を有効に発揮できるよう、内閣総理大臣又は内閣官房長官を議長とし、関係大臣、学識経験者の合議により処理することが適当な事務をつかさどる「重要政策に関する会議」(重要政策会議)を内閣府に置くこととされた。

 なお、内閣府は内閣官房とともに、内閣の重要政策に関する企画立案・総合調整についての任務を有するが、内閣府は、内閣補助事務の遂行に当たり内閣官房を助けるという関係にあり、国政上重要な具体的事項について恒常的かつ専門的な対応が必要な場合には内閣府が企画立案・総合調整事務を所掌するとされる。内閣府設置法第4条では、経済財政政策、総合科学技術政策、防災、男女共同参画など、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)第10条の規定等により、内閣府において企画立案・総合調整を行うものと解される分野については第1項に各号列記し(1項事務)、高齢化、障害者など他の分野に関する企画立案・総合調整については閣議決定で定める基本的な方針に基づき行うことを第2項で規定している(2項事務)。また、企画立案・総合調整事務とともに関連の事務・事業の実施が必要な場合に、内閣官房が企画立案・総合調整事務を、分担管理事務を所掌する内閣府が関連の事務・事業の実施を担当することがあるが、これは両組織にまたがる業務として、いわゆる二枚看板と呼ばれている。」(立法と調査 2015.5 No.364『内閣官房・内閣府の業務のスリム化 ― 内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための 国家行政組織法等の一部を改正する法律案 ―』3頁。太字:久保)。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2015pdf/20150512003.pdf


 他方で、「内閣総理大臣は、内閣府に係る主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、内閣府の命令として内閣府令を発することができる。」とされ(内閣府設置法第7条第3項)、同様に、「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。」とされているにすぎないから(国家行政組織法第12条第1項)、内閣府令と省令は、同順位だとも考えることができる。

 法制執務用語研究会は、この点を重視して、②説を主張しておられるのかも知れない。


 みなさんは、どのようにお考えだろうか?







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