変更解釈の具体例


1 文理解釈(文言解釈)と論理解釈(目的論的解釈)

 国の法令であろうと、自治体の例規であろうと、原課の職員さんたちが、誰が読んでも誤解しないように、規定の文章に何度も推敲を重ねた上で、内閣法制局又は法制執務担当の職員さんがチェックし、国会又は地方議会の議員さんもチェックしているから、行政実務上、9割方は、文理解釈文言解釈(法令の規定を、その規定 の文字や、文章の意味するところに即して解 釈をすること)、平たく言えば、国語通りに解釈すれば足りる。


 法令の制定直後は、その意味を明らかにする必要があるし、また、法令の規定と現実とのギャップが少ないので、文 理解釈が広く行われる。   

 しかし、社会は日々変化し続けているため、法令の規定と現実とのギャップが生じたり、法令の制定当時に想定し得 なかった現実が生じたりすることもあるし、また、複数の法令や制度に矛盾が生じたりすることもある。全体として統 一性をもった法体系としての整合性を保ちつつ、日々変化する社会に対応しして法令を公正妥当に運用するためには、 杓子定規(しゃくしじょうぎ)な文理解釈だけでは不十分だ。

 そこで、法令の目的や趣旨、その規定の背景事情、他の諸規定との関係など、諸般の事情を勘案して法の真意を探究 し、論理的思考に基づいて解釈する必要がある。これを論理解釈目的論的解釈)という。

 法令の文字や文章を無視し て論理解釈することは、もはや法の解釈とは言えず、解釈論と立法論を混同するものとして許されない。

 法の解釈は、 文理解釈を基本としつつ、これを補うものとして論理解釈を行うべきだ。論理解釈には、拡大解釈拡張解釈)、縮 小解釈反対解釈もちろん解釈(勿論解釈)、類推解釈変更解釈がある。


2 変更解釈

 さて、「変更解釈というのは、法令の規定の文字を変更して、本来それが意味するところよりも 別の意味に解釈することである」(林修三『法令解釈の常識〔第 2 版〕』日本評論社120 頁以下)。

 「明らかに立法上のミスと考えられる場合にのみ変更解釈は許容されると思われるが、し かしながら、それでも、変更解釈は、軽々とすべきものではなかろう。もっとも、変更解 釈が絶対に許されないかといえばそうではなく、法文上の誤りが明白で、しかも、そうい う変更解釈をした方が、法秩序全体の調和の維持にも役立ち、他の法令との関係も矛盾な く解釈でき、かつ、不当に個人の人権を侵害せず、社会の正義と公平の要求にも合致する ような場合にのみこの変更解釈を認めても差し支えないと考えられるのである」(林・前掲書123 頁)。


 例えば、 法令Aが改正され、本来、これに合わせて法令Bの規定の言葉を書き換えなければならないのに、書き換えられず に改正漏れになっているような場合に、その法令Bの規定の言葉に改正内容に応じた別の言葉を当てはめて、改正 内容に沿った意味内容に解釈し直すわけだ。明白な立法上のミスであると考えられる場合に行われる解釈方法だ。


3 変更解釈の具体例

 変更解釈の具体例は、皆無に近いが、私が知っている唯一の例は、国税通則法附則第1条だ。

 すなわち、国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)は、附則第 1 条で「この法律は、昭和三十七年四月一日から施行する。」と定 められているのに、実際にこの法律が成立し公布されたのは昭和 37 年 4 月 2 日だった。国会が紛糾してこの法律の法案の審議が遅れたために成立・公布が 4 月 2 日になってしまったわけだ。

 法律が公布されていないのに施行することが不可能だから、施行は過去に遡ることができないが、適用は過去に遡ることができることから、国税通則法附則第 1 条の「この法律は、昭和三十七年四月一日から施行する。」という規定は、「この法律は、昭和 37 年 4 月 2 日から施行し、同年 4 月 1 日から適用する。」と変更解釈されている(田島信威著 『最新法令用語の基礎知識』ぎょうせい)。


4 変更解釈の具体例?

 もう一つ変更解釈の具体例ではないかと思われるものがある。地方公務員法第28条の2の定年退職だ。


 すなわち、公務員としての職を失うことを離職という。離職には、行政処分によることなく、法律上当然に離職する失職と、行政処分によって離職する退職がある。

 退職には、免職(辞めさせる。懲戒免職と分限免職がある。)、辞職(自分から辞める。依願退職ともいう。)、死亡退職がある。

 失職には、欠格条項に該当する場合(地方公務員法第28条第4項)、任期付任用職員の任期満了定年退職がある。

 

 さて、この定年退職は、条文上は「退職」と定められているが、「失職」だと解釈されている。

すなわち、「地方公務員法第二八条の二の規定により職員が定年によって退職すべき日が到来したときは当然に離職することになる。地方公務員法では定年による「退職」と規定しているが、その法律的性質は失職である。」(橋本勇『新版 逐条地方公務員法<第2版改訂版>』学陽書房521頁。下線:久保)

 「定年による退職は、定年に達し、かつ条例で定める日が到来したという事実のみに基づいて当然かつ自動的に離職の法律効果が生ずるものである。したがって、定年による退職についての辞令の交付は法律上の要件ではないが、職員にとっては重要な身分上の変更であるので、事実を確認する意味で辞令を交付することが適当であろう。また、定年による退職は、任命権者の裁量の余地のない自動的な退職であり、雇用を使用者の意思によって解除する「解雇」ではないので、労働基準法第一九条の解雇制限の規定の適用はなく(民間の定年退職に関し同条の適用がないことについて、労働者行実昭二五・一・一〇 基収第六八二号)、同法第二〇条の解雇予告制度の適用もない。」(橋本・前掲書551頁・552頁。下線:久保)。


 これは、まさに変更解釈だと思うのだが、如何なものだろうか。


 なお、定年退職は、条文上は「退職」と定められているが、辞令の交付(行政処分)によらずに、法律上当然に離職する「失職」だから、辞令の交付は不要だ。

 この点、前述したように、橋本は、「定年による退職についての辞令の交付は法律上の要件ではないが、職員にとっては重要な身分上の変更であるので、事実を確認する意味で辞令を交付することが適当であろう」と述べているが、私が首長ならば、辞令を交付する代わりに、住民を代表して、感謝状を贈りたい。


 さらに、変更解釈の具体例だと思われるものとしては、以前お話しした日本国憲法第7条第4号「国会議員の総選挙」と、日本国憲法第20条第3項、第21条第1項、第47条の「その他」がある。


 



 

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