「守るべき国」から、ただの「戦場」へ

 一部ネットで話題になっていた事件をBBCが採り上げた。

 日本人2名を死亡させて実刑判決を受けた米兵が、米国に引き渡されて、即日保釈され、英雄扱いされているわけで、この不条理に、カチンと来ない日本人はいないだろう。

 同種の問題は、昔からあり、日米地位協定の不平等性に原因があると指摘されるのが一般的だ。


 しかし、この説明は、日本側から見た原因であって、いたずらに反米感情を煽るものだ。アメリカ側から見たら日米地位協定が不平等なのは当然だということを多くのマスコミは指摘しない。


 言うまでもないが、日米安保条約は、日本が他国から攻撃されたら米国が日本を守るが、米国が他国から攻撃されても日本は米国を守らないという意味において、片務的条約だ。

 在日米海兵隊ヘンリー・C・スタックポール司令官(少将)は、 「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。だれも日本の再軍備を望んでいない。だからわれわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶のふたなのだ」(「瓶のふた理論」)と述べたように、日米安保条約が片務的なのは、当初は日本の再軍備化・軍国主義化を防ぐというアメリカ側の国益に基づくものであった。


 時を経るにつれて、この片務的な日米安保条約を盾にして、日本は、本来支出すべき防衛費を経済発展に回して米国との間に貿易不均衡を作り出しているから、日本も応分の財政的な負担をすべきだという「安保ただ乗り論」が浮上し、米国内ですっかり定着してしまった。


 そして、米国が他国から攻撃されても日本は米国を守らないのに、日本が他国から攻撃されたら米国が日本を守るために米国の若者たちが死ぬのは不平等だと思うのは、米国人からしたら当然の反応だろう。これほど不平等なことがあろうか。米兵にも親兄弟や妻子がいるのだ。


 しかも、海外では、日本の取調べは自白偏重で可視化が遅れており、刑事裁判の有罪率の高さが異常だとか刑務所の環境が劣悪だとか、様々な誤解に基づく報道がなされている。


 そのため、日米地位協定が不平等なのは当然だと米国人は思うわけだ。漫画、アニメ、日本食などにより米国人の日本に対する好感度は高くなったが、日本に対する不信感は決して拭いきれない。これが上記事件の米兵が英雄視された理由だ。


 しかし、米国側がどう思おうと、結局は、米国が他国から攻撃されたら日本は米国を守るために戦うかどうか、日本人に米国を守るために戦う覚悟があるかどうかの問題に帰着する。

 日本人に米国を守るために戦う覚悟があれば、日米安保条約を双務的な条約に改定して、併せて日米地位協定も対等なものに改定することができるからだ。


 ところが、「もし戦争になったら国のために戦うか」という意識調査で、「はい」と答えた日本人は13.2%で世界最低だ。

 日本のためにすら戦わないのに、いわんや米国のために戦うはずがない。

 この点に関連して、櫻井よし子氏がXで「『あなたは祖国のために戦えますか』。多くの若者がNOと答えるのが日本です。安全保障を教えてこなかったからです」と投稿したところ、「自分は戦場に行く気もない人間がこういうことを言うんだよね」、「老人が若者を煽ってはいけません」、「祖国のためではなく、権力者のために血を流すことに若者も年寄りもNOと言っているのです」という批判が集まり、炎上したそうだ。


 櫻井よし子氏は、胡散臭いので、擁護するつもりはないが、上記のような批判コメントを書いている人たちは、自衛隊と米軍が命をかけて守ってくれている安全地帯に自分がいることを知らないようだ。


 侵略されたままの北方領土・竹島やロシアの侵略から祖国を守るために必死で戦っているウクライナ兵を見ても、いまだに目が覚めないのは、GHQの占領政策、日教組などの左翼教育、マスコミによって垂れ流された自虐史観、反戦思想の輝かしい成果だ。

 尚武の気風が失われ、すっかり腑抜けにされた日本人が自国はもちろん米国を守る気概がない以上、日米地位協定の不平等性をいくら訴えても、米国人の心には決して響かないだろう。


 日本人の自由を守るためには、真の自由主義(保守主義)を共有することができる英米とともに全体主義国・独裁国家と戦うしかない国際情勢を理解できず、「平和」と念仏を唱えれば平和になるというコミュニストが唱える9条教に洗脳され、日本を守るために戦う覚悟すらない。

 このような日本の国力が低下し、米国にとって日本の地政学的・戦略的価値がなくなれば、日本は「守るべき国」ではないとしてモンロー主義が復活し、日米安保条約を破棄するだろう。某国の思う壺だ。そして、やがて米国は、かつてのようにモンロー主義を放棄して、日本列島は覇権争いのただの「戦場」となるだろう。





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