平和は相互の恐怖に基づくものなり

 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が連日報道されていたが、最近になってようやく落ち着きを見せてきた。


 似たような名前の団体が複数あって、部外者の私には訳がわからないので、ここで簡単に整理しておこう。


 この日本被団協は、当初は原水爆禁止日本協議会(原水協)に所属し、原水爆禁止運動を行っていた。


 日米安保をめぐって争いが生じ、民社党・自民党系が原水協から離脱して、核兵器禁止平和建設国民会議(核禁会議、現:核兵器廃絶・平和建設国民会議、略称はKAKKIN(かっきん))を立ち上げた。


 次に、ソ連の核実験等の評価をめぐって争いになり、日本共産党は、「防衛的立場の社会主義国の核実験を帝国主義国の実験と同列に論じるのは誤り」であるとして、米国に対するソ連の核抑止論を擁護した。

 これに対して、「いかなる国のいかなる理由による核実験にも反対」だとする社会党・総評系が原水協から離脱して、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)を立ち上げた。

 その結果、現在の原水協は、共産党系ということになる。


 まとめると、原水爆禁止運動は、民社党・自民党系の核禁会議、社会党・総評系の原水禁、共産党系の原水協の3団体に分裂したわけだ。


 日本被団協の内部でも同様に対立が生じ、分裂したが、現在の日本被団協は、いかなる団体にも所属しないとして、原水協から離脱している。 

 ところで、核抑止論とは、「核兵器で報復すると威嚇し、敵対国の軍事攻撃を思いとどまらせるという理論」をいう(『共同通信ニュース用語解説』)。


 下記の記事によると、米国に対するソ連の核抑止論を一貫して擁護してきた日本共産党が、「『核兵器のない世界』を実現する最大の障害となっているのが核抑止論です。日本共産党は、その誤りを一貫して批判してきました」と嘘を述べているそうだ。


 二枚舌は、コミュニストのお家芸なので、驚きはしないが、これほど露骨な嘘が通用すると本気で思っているとしたら、日本人を馬鹿にするにも程がある。


 だが、重要なことは、そんなことではない。「『核兵器のない世界』を実現する最大の障害となっているのが核抑止論」だとするならば、米軍の核の傘の下に入っている日本としては、「核兵器のない世界」を実現するために、日米安保条約を解消して、米軍を日本から撤退させるべきだということになる。

 日米安保条約反対こそが日本共産党が一貫して主張していることなのだ。


 では、日本共産党が言うように、核抑止論は誤りなのだろうか。


 戦後79年間、核戦争は一度も起きていない。ウクライナが核兵器を廃絶した途端に、ロシアが侵略戦争を開始した。核兵器を保有する中国や北朝鮮は、国際法を遵守せず、乱暴狼藉をし放題だが、日本も米国も軍事的鉄槌(てっつい)を下すことができずにいる。


 これらの事実に鑑(かんが)みると、核抑止論が正しいことが歴史的に証明されていると言える。

 最も尊敬すべき政治家の一人であるウィンストン・チャーチルも、「道学者は平和が相互の恐怖以上に立派な基礎を見出し得ぬことを、憂鬱な考えと思うだろう。」と述べている(1952年3月5日下院演説)。

 「平和」・「憲法9条改正反対」と念仏を唱えれば、平和が訪れると信じている頭がお花畑の平和教徒は、認めたくなかろうが、これが冷厳たる真実なのだ。


 核兵器や軍隊があるから戦争が起きるのではない。軍事的空白が生まれ、軍事的均衡が破られるから戦争が起きるのだ。やったらやられるという「相互の恐怖」、換言すれば、軍事的均衡が保たれているからこそ平和が守られているのだ。


 もし日米安保条約を解消して、米軍が日本から撤退し、米軍の核の傘が外されたら、軍事的空白が生まれ、軍事的均衡が破られるから、ロシア、中国、北朝鮮、これに便乗して韓国も喜び勇んで日本列島で国取り合戦を始めるだろう。

 暴力で権力を簒奪(さんだつ)した者は、盗んだものを維持するため、しばしば恐怖政治を行う。

 国のために戦うかという問いに「はい」と答えた日本人は、世界最低の13%にすぎない。怯懦(きょうだ)で愛国心に欠ける日本人は、圧政に苦しみ、恐怖に怯(おび)え、ゲットーでドブネズミの如き惨(みじ)めな一生を終えるだろう。

 これこそが核兵器のない世界・日米安保条約反対の真の狙いなのだ。


 一昔前にこのようなことを言えば、袋叩きに遭ったものだが、今は、多くの国民がこの真の狙いを薄々察している。

 政府は、国民にかかる真実を伝え、これまで通り米軍の傘の下にいるのか、それとも独自に核兵器を持つのか、あるいは米軍と核兵器を共用するのかについて、民意を問うべきなのだ。

 衆議院議員選挙が間近に迫っている。この点についても、候補者も有権者も考慮してほしいものだ。






源法律研修所

自治体職員研修の専門機関「源法律研修所」の公式ホームページ