血税だから「可山優三」ではダメなのです

 公務員試験予備校の授業料を親に出してもらっている学生よりも、身銭を切っている学生や社会人の方が意欲的に勉強し、合格する傾向が極めて高かった。

 自ら額に汗して稼いだお金だから、元を取ろうと頑張るからだ。


 ところで、今は知らないが、少なくとも私が学生の頃までは、大学の成績は、通常、優、良、可、不可の4種類で(優の上に、秀を設ける大学もあった。不可は、赤点のことだ。)、成績表に可が山ほどあって、優がたった3つという平凡な成績を指して「可山優三」(かやまゆうぞう)と言った。俳優・歌手の加山雄三をもじったスラングだ。

 「可山優三」は、卒業できるが、不可が林の如くいっぱいあって、可が3つという「不林可三」(ふ〜りんかざん)だと卒業できない。武田信玄の「風林火山」をもじったものだ。

 他にもオール可の「可取大明神」(かとりだいみょうじん)とか、優が2つだけの「南都優二」(なんとゆうじ)などの言い方もあった。「南都優二」は、ミヤコ蝶々との漫才コンビ「蝶々・雄二」の南都雄二をもじったものだ。

 大学の学部学科は、同じぐらいの学力の学生ばかりなのに、不思議なことに、入学後の学修意欲と努力によって、このような成績の違いが生じるのだが、当時の企業や役所は、大学の成績に重きを置かなかったから、平凡な成績の学生も就職できた。


 さて、下記の記事の学生や教員の言い分は、「可山優三」でも修学支援を継続してくれ、というようなものだ。


 しかし、普通、成績優秀者に対して奨学金支給や授業料免除等をするのに、この修学支援制度は、普通にちゃんと授業に出席して、単位を取り、成績上位4分の3に入りさえすれば足りるから、ゆるゆるの制度設計なのだ。これで授業料等が免除減額された上に、お金まで貰えるのだから、「ばら撒き行政」そのものだ。

 そのため、自ら額に汗して稼いだ金ではないから、一所懸命に勉強もせずに、甘ったれたことを言うのではないか、とつい思ってしまう。


 これに対して、「被支援学生だって、生活のためにアルバイトをして、自ら額に汗して稼いでいるんだ。生活のためにアルバイトをせざるを得ず、その分勉強に割く時間が減るから、学業要件が厳しすぎると言っているんだ。」、というような反論があり得る。


 しかし、水掛け論になってしまうが、働きながら夜学に通っている社会人学生もいるし、生活費や学費を稼ぐためにアルバイトをしながら、優秀な成績で卒業した学生なんて、昔からいくらでもいるのも事実であって、失礼ながら、己の腑甲斐無さを棚に上げて、楽をしたいがために制度のせいにしているだけではないのか、と思わなくもない。

 ほんの一例だが、教え子の女の子は、成績優秀で毎年学費を全額免除され、親御さんの仕送りを受けずに、家賃・生活費・留学費・公務員試験予備校の授業料を賄い付きの配膳アルバイトで全額稼いで、公務員試験にいくつも合格している。悲壮感なんて微塵もなく、いつも自信に満ち溢れ、にこやかで元気いっぱいのお嬢さんだった。国文科で平安文学を専攻しているのに、第二外国語で選択したスペイン語をマスターして、スペインに留学した時には、さすがに驚かされたが。

 

 人生は長いのだから、回り道をしたっていいじゃないか。いったん退学するなりして、自分で学費・生活費を稼いでから、再び大学で学べばよいのではないか。そこまで意欲的な学生だったら、元を取ろうと必死に勉強して優秀な成績で卒業するはずだ。回り道だと思われたことも、コンピテンシー面接に役立つ。


 ただし、記事の大学がハーバード大学のように、各科目ごとに毎回、教授指定の膨大な参考書籍・論文を読んでレポートにまとめ、これらの資料を事前に読み込んでいることを前提に授業を進める、ハードな授業ばかりだったら、アルバイトで生活費を稼ぐ学生には時間がなくて酷だと思うので、謝罪の上、前言を撤回したい。(なお、私立大学であるハーバード大学では、OB/OGや篤志家などの寄付により、アルバイトをしなくても済むほど奨学金制度が充実している。これが本来の自由主義・資本主義のあり方なのであって、我が国の高等教育の修学支援制度は、愚かな社会主義政策なのだ。)

 もっとも、記事には「素点平均が81点の学生でもGPA下位4分の1」だそうだから、かなり易しい試験をしている大学のようにお見受けするのだが。


 今も昔も我が国の大学は、トコロテン式だし、また、今の大学は、私の頃と異なり、講義概要(シラバス)に成績評価の基準がきちんと示されているから、良い成績を叩き出すのは容易(たやす)いと思うけどなぁ〜。

 私の頃は、成績評価基準をおっしゃる先生はほとんどおらず、中には、「諸君の答案を読むのは時間の無駄だから、階段の上から答案を撒いて何段目かによって点数を付ける」とか、「私を超えたら優をやろう」とか豪語する先生もいらっしゃった。こんな発言が問題にならないほど牧歌的な時代だった。


 なお、上記の記事にある「高等教育の修学支援制度」は、意欲ある子供たちの進学を支援するため、授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金により、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校を無償化する制度として令和2年4月にスタートした。

 これも社会主義政策だ。うんざりするから、制度批判はやめておく。


 令和7年度から適用される「高等教育の修学支援新制度」では、大学等への進学後、学生等の十分な学修状況を見極める観点から、学修意欲とともに、学修成果についても一定の要件(学業要件)が設けられた。


警告(支援は継続)となる要件

・ 出席率が8割以下

 →半期15回の授業のうち欠席が3回以上

・ 修得単位数が7割以下

 →単位数が、

 1年生・・・21単位以下

 2年生・・・43単位以下

 3年生・・・65単位以下

 4年生・・・86単位以下

 (卒業に必要な単位数が124単位の場合)

・ GPA(成績評価)が、所属する学部等の下位4分の1


廃止(支援打切り)の要件

・ 終業年限内で卒業・修了ができないことが確定

・ 出席率が6割以下

 →半期15回の授業のうち欠席が6回以上

・ 修得単位数が6割以下

 →単位数が、

 1年生・・・18単位以下

 2年生・・・37単位以下

 3年生・・・55単位以下

 4年生・・・74単位以下

 (卒業に必要な単位数が124単位の場合)

・ 警告要件に2回連続で該当

 ※  2回目の警告がGPA要件のみの場合は、支援打切りではなく、次の判定まで支給停止


 

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