選択の自由

 高校生の頃、霊長類学を学んでアフリカのボノボ(チンパンジー)の研究を通して人間社会を考察したいと思い、農学部受験を志望していた。親父の猛反対により、やむなく法学部へ進学した。


 こんなこともあって、農業大学を舞台としたアニメ『もやしもん』や農業高校を舞台としたアニメ『銀の匙 Silver Spoon』が面白くてたまらない。いずれも無料視聴した。


 特に後者は、前者よりもリアルだ。

 主人公は、札幌の進学校での競争に敗れて「寮があるから」という志望動機で大蝦夷農業高等学校(エゾノー)の畜産科に入学し、朝4時に起床して鶏・豚・牛・馬の世話したり、高校内で採れた小麦・野菜・チーズ・ベーコンなどを使ってピザを焼くイベントをしたり、ばんえい競馬を実施したりするなど、青春を謳歌している。先生方もおおらかで、生徒がやりたいことを後押ししてくれる。命を頂くことの厳しさと感謝、実家が農家の同級生たちを通じて農家の厳しい現状を直視させられ迷いつつも、たくましく生きる術を身に付けつつある。

 しかも、農業高校は、自給自足ができるし、飯も美味そうだ。高校時代、生徒会を牛耳っていた私としては、農業高校ほどときめく舞台はない。


 な〜んて思ったものだから、普通科高校を卒業した私が農業高校へ進学することができるのだろうか?、とちょっと調べてみた。


 そしたら、文科省のHPに答えがあった!


 「法令上、一度高等学校を卒業した者の再入学を禁止する規定はなく、一度高等学校を卒業したことをもって、高等学校入学資格が無くなるものではありません。例えば、高等学校の普通科を卒業した者が、工業学科等の他の学科に入学することが考えられます。  

 また、単位制高等学校においては、校長の判断により、生徒が過去に在学した高等学校において修得した単位について、当該高等学校の全課程の修了を認めるに必要な単位数のうちに加えることができます。  

 なお、各学校への入学が許可されるかどうかについては、調査書その他必要な書類、選抜のための学力検査の成績等を資料として行う入学者選抜に基づいて各校長が許可することとなりますので、詳細については、各学校にお問い合わせください。」


 OKじゃん!!

 いまさら入試は面倒くさいけど、なんとかなるだろうし、学費・寮費・生活費もなんとかなる。

キャピキャピの高校生ライフが待っている〜♪♪  *\(^o^)/*


 喜んだのも束の間、よく考えてみたら、腰痛持ちのジジイには農作業や家畜の世話などの重労働は、無理だ…


 中学生の頃は、普通科高校に進学するのが当たり前で、農業高校なんてまったく眼中になかったが、私が知らないだけで、工業高校や商業高校もきっと面白いに違いない。伝統工芸、料理、お菓子、パン、大工などの職人の道も面白そうだ。


 今の中学では、職業体験が行われていることはニュースで知っているが、進路指導としてアニメ『銀の匙 Silver Spoon』を見せたりするなど、中学生の選択の幅を広げてあげる努力がなされているのだろうか。


 「好きこそ物の上手なれ」と言われているように、好きなことを一生の仕事にするのが一番幸せだ。

 人手不足だから移民を入れろ、と乱暴な議論がなされているが、中学生のだれもかれもがお手手つないで仲良く普通科へ進学するのではなく、自分が面白いと思った道へ進むようになれば、世の中の流れが変わると思うのだが、如何なものだろうか。

 そのためには、親の理解が不可欠だが、世間体を気にしたり、横並び意識が高いから、これが一番厄介そうだ…

 親も学校も、子供の「選択の自由」を保障してあげてほしいものだ。


 その前に、学歴・偏差値・模試順位に凝り固まった政治家や官僚の頭を変えなければならないが。

 例えば、東大法学部卒の宮沢喜一首相は、東大経済学部卒などに対して「ほう、近頃は法学部でなくても東大って言うんですか」と言い放ったり、また、東大法学部卒の片山さつき議員は、大蔵官僚時代に、大学高校の先輩である鳩山邦夫議員に対して、「先生は高校時代、全国模試で1位、1位、3位、1位だったそうですね」と片山氏が訊ねると、鳩山邦夫氏は満足そうに「そうだ」と答えたら、片山氏が「私は1位、1位、1位、1位でした」と勝ち誇ったように言ったそうだ。


 宮沢首相の学生時代は、東大法学部よりも、海軍兵学校や陸軍士官学校の方がはるかに上だったし、今でも、東大はオックスブリッジの足元にも及ばないので、「井の中の蛙大海を知らず」で、ある意味微笑ましいのだが、こういう発想しかできない連中が国政を担っている限り、子供の「選択の自由」の保障は不十分なままだろう。

 

源法律研修所

自治体職員研修の専門機関「源法律研修所」の公式ホームページ