言葉は難しい <追記>

 赤ちゃんの絵が描かれ、「Baby in car」と書かれた車ステッカーが面白いというので、外国人観光客が買って帰るらしい。

 「Baby in car」は、「車には赤ちゃん成分が入っています」という意味になるからだそうだ。

 「赤ちゃんが乗車しています」の正しい英訳は、「Baby on board」らしい。

 on boardは、「乗船(乗車、搭乗)して」という意味の成句だ。boardは、板だから、船の板、つまり甲板に乗っているので、「乗船して」という意味になり、やがて自動車や飛行機にもこの表現が用いられるようになったのだろう。知らんけど。笑


 「Baby in car」は、我々日本人にありがちな誤訳だ。英語が苦手な私もつい言ってしまいそうだ。

 英語話者がたくさんいるのだから、商品化する前に英語が間違っていないかどうかをチェックしてもらえばいいのにと思うけど、後の祭りだ。


 英語であろうと、日本語であろうと、言葉というものは、本当に難しい。


 ところで、下記の記事によると、「兵庫県の斎藤元彦知事が4日、県庁内で開いた定例会見で、県の第三者委員会が「元西播磨県民局長の公用パソコン内の私的情報を県議3人に漏洩した」と認定した井ノ本知明(ちあき)前総務部長について、県議会の主要4会派が地方公務員法(守秘義務)違反容疑で刑事告発するよう申し入れたことについて「県としては、刑事告発というものは考えていない」と述べた。

 斎藤氏は、県が井ノ本氏を停職3カ月の懲戒処分としたことを挙げ「あくまで告発するかどうかっていうのは、あくまで自治体などの判断が一定ある。懲戒処分によって、社会的な制裁も受けていることなどを踏まえて、刑事告発しないという判断をした」と説明した。」そうだ(太字:久保)。

 刑事訴訟法第239条第2項は、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と定めている。

 これは、犯罪の捜査ないし公訴権の行使といった刑事司法の適正な運用を図るために,各行政機関に対し、刑事司法の運営についての協力義務を課すとともに、告発に担保された行政運用を行うことで、行政の機能がより効果的に発揮されることを期待しているからに他ならない。


 同条項が単なる訓示規定にすぎないのか、それとも法律上の義務を課す規定なのかについては、学説上争いがあるが、後説においても、公務員の職権による裁量を許さないと解する説はない。


 この点、監修:松尾浩也、編集代表:松本時夫・土本武司『条解刑事訴訟法』(弘文堂)も、同条項について、「本項は、単なる訓示規定とは解されない」とする一方で、行政機関は、それぞれが固有の行政目的 の遂行にあたっており、「告発を行うことにより、その行政機関の行政運営に重大な支障を生じ、そのためにもたらされる不利益」と、「告発を行わず当該犯罪が訴追されないために生じる不利益」とを比較考量し、もし「告発を行うことによってその行政機関にもたらされる不利益」の方が大きい場合には、行政機関の判断で告発しなくても、本項の義務違反にはあたらないと解している。

 つまり、行政機関には、自分の所属する行政機関 が達成しようとしている目的を踏まえ、その犯罪 を告発するか否かを決定する裁量権が与えられて いるとした上で、「告発を行うべきか否かは、犯罪の重大性、犯罪があると思料することの相当性、今後の行政運営に与える影響等の諸点を総合的かつ慎重に検討して判断されることになり、これらの理由に基づいて告発をしないこととしても、直ちに本項に違反するものではない」としている。


 条文にはっきりと「告発をしなければならない」と明記されているのに、結局、告発しないこともできるわけだ。

 いやはや言葉とは難しいものだ。


 仮にこの解釈を採ったとしても、「懲戒処分によって、社会的な制裁も受けていることなどを踏まえて、刑事告発しないという判断をした」という斉藤知事の説明では不十分だ。

 犯罪の重大性、犯罪があると思料することの相当性、今後の行政運営に与える影響等の諸点を総合的かつ慎重に検討して判断しているのかどうかについて、しっかりと説明責任を果たしてほしいと思う。


<追記>

 前述したように、県としては「懲戒処分によって、社会的な制裁も受けていることなどを踏まえて、刑事告発しない」としたのだが、神戸学院大教授の上脇博之氏が、「地方公務員法(守秘義務)違反容疑などで、斎藤知事と片山安孝元副知事、井ノ本知明前総務部長の3人に対する告発状を神戸地検に提出した」

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