レッテル貼り

 橋下徹氏は、X(旧Twitter)で、「日本国籍ガーと国籍を語る人に限って日本の国籍法が採用する血統主義の思想的根本問題を何も考えていない。血統主義とは個人で人生を切り拓く希望・可能性を奪う考え方。血筋が全て。血筋なんか言い出したら俺はアウトだよ(笑)何よりもうちの子どもが血筋なんてのに拘束されるなんてまっぴらごめんだ」と述べている。

 下記の記事を読む限り、橋下氏が置かれた境遇について同情するとともに、苦境をバネに、ラグビーに打ち込み、勉学に励んで弁護士になり、大阪府知事・大阪市長を歴任したことに拍手を贈ることにやぶさかではないが、だからといって何を言ってもいいということにはならない。

 国籍の決め方には、地縁血縁の二つの要素がある。出生地主義は、地縁を重視して、ある国家の領域内で生まれた子は、その国家の国籍を取得するという建前だ。

 これに対して、血統主義は、血縁を重視し、親の国籍を子が継承するという建前だ。


 このように我が国の国籍法が採る「血統主義」は、出生地のいかんにかかわらず、親の国籍が日本であれば、子の国籍も日本になるという立法の立場にすぎず、決して父又は母の出自(血筋や家柄など)を考慮に入れるものではない

 親が日本人の血筋ではなくても、日本国籍を有する日本国民でありさえすれば、その子は日本国籍を取得するというのが血統主義なのだ。血筋なんて関係ないのだ。

 例えば、中国人の男女が日本に帰化して日本国籍を取得して日本国民になった後で、両人が婚姻し、子供が生まれた場合には、その子には日本人の血が一滴も入っていないけれども、血統主義により、その子は日本国籍を取得し、日本国民になるのであって、両親の出自は決して考慮されないのだ。


 弁護士である橋下氏がこれを知らないはずはない。橋下氏自身が「日本国籍ガーと国籍を語る人に限って日本の国籍法が採用する血統主義の思想的根本問題を何も考えていない」と述べている以上、国籍法の血統主義とは何かをよく承知のはずだからだ。


 ところが、橋下氏は、「血統主義とは個人で人生を切り拓く希望・可能性を奪う考え方。血筋が全て。血筋なんか言い出したら俺はアウトだよ(笑)何よりもうちの子どもが血筋なんてのに拘束されるなんてまっぴらごめんだ」と述べている。

 まるで国籍法の血統主義が差別主義であって、親の血筋によって子を差別するかのような印象操作を行なっているのだ。


 国籍法第2条を熟読玩味せよ!、と言いたい。いったいどこに個人で人生を切り拓く希望・可能性を奪う考え方が示されているのか!どこに血筋が全てと書いてあるんだ!

 「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」(国籍法第2条第1号)、「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき」(国籍法第2条第2号)は、子は日本国籍を取得するものとして血統主義を採りながらも、無国籍児を救済するため、例外として、「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」(国籍法第2条第3号)は、子は日本国籍を取得するものとして出生地主義を採っているのだ。


 国籍法の血統主義が気に入らず、出生地主義を採れと考えているのであれば、これを正面から論じるべきであって、血統主義が差別主義であるかの如きレッテルを貼るべきではない。


 橋下氏の内面は、誰にも計り知れないが、血統主義反対(出生地主義による多民族国家化)、女系天皇の肯定(皇統の断絶による象徴天皇制度の廃止)、夫婦別姓の肯定(家族の破壊による日本社会のアノミー化)、戸籍制度の廃止(帰化隠し)など、橋下氏の主張に共通しているのは、日本社会の破壊だ。


 強者に対する弱者の憎悪や復讐衝動などの感情が内攻的に屈折している状態をressentimentルサンチマンという。

 すなわち、虐げられた弱者(ex.奴隷)は、敵わぬ強者(ex.王)に対して、反感・怨恨・嫉妬・憎悪・憤りなどの反道徳的な負の感情を抱くが故に、自らを正当化するために、弱者である自分は善であり、強者は悪だと考えるのだ。これをルサンチマンというわけだ。

 例えば、「社会が悪い!」と嘯(うそぶ)く不良少年は、自分を被害者の立場に置くことによって、社会を加害者に位置付けて、自分の犯罪行為を正当化するが、これがルサンチマンだ。


 自らを蔑(さげす)み続けてきた日本社会、ひいては日本国そのものに対する復讐として破壊衝動が生じているのだろうか。仮にそうであれば、逆恨みだ。日本社会の中で育まれ、日本国によって守られてきたことのありがたさに気づかない小人だ。


cf.国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)

(出生による国籍の取得)

 第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。

  一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。

  二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。 

 三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。



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