先日、某市役所の地方公務員法研修に出講した。受講者名簿を見たら、公社の方がいる。市役所から出向しているのだろうと思って、講義をしていた。
休み時間に気になってお訊ねしたら、公社のプロパーの職員さんだと言うではないか。そうすると、民間企業の労働者と同じ立場だから、「地方公務員法を勉強させるのはどうなの?」と思った。
まあ、民間企業の労働者とほぼ同じ立場である地方公営企業の企業職員についても講義で触れるので、無意味ではないが、頭の中が?マークで一杯になった。
頭の中が?マークで一杯になることは、多々ある。ユダヤ教やイスラム教では、豚を食べることが戒律で禁止されている。その理由は不明であり、長年、「とんかつや豚しゃぶは美味しいのに、なぜ?」と不思議に思っていた。
ところで、チンパンジーが猿を捕食することは、以前から知られていた。雑食性のチンパンジーが主食ではない肉を求めて狩りをする理由については、専門家の間で意見が分かれていたが、チンパンジーは、真っ先に猿の脳を食べることから、神経系の発達を促す脂質と長鎖脂肪酸を豊富に含む脳を食べることにより、必要な栄養素を補うためだと考えられる。
この点は、ネアンデルタール人も同じだ。
下記の記事によると、ドイツ中部ハレ南郊のノイマルク・ノルドと呼ばれる遺跡から数年の間に出土した約12万点の骨片及び1万6000点の石器を分析した結果、12万5000年前に現地で暮らしていたネアンデルタール人が骨髄を多く含む骨を石斧(せきふ)で細かく砕き、数時間煮込んで脂肪を抽出していたことが判明したそうだ。
「少量の脂肪は、健康でバランスの取れた食生活にとって欠かせない。狩猟採集を営み、動物性食品に大きく依存しがちなネアンデルタール人のような生活では特にそうだ。 赤身肉中心で脂肪酸の乏しい食生活は、時として致命的な栄養失調の形態を引き起こし得る。具体的には、たんぱく質を分解して過剰な窒素を取り除く肝酵素の機能が損なわれる状態に陥る。現在ではたんぱく質中毒として知られる症状だ。」
そこで、ネアンデルタール人は、動物の脳や骨髄を食べたわけだ。
なお、現時点で世界最古の土器は、日本で出土した1万2千年以上前の物だから、12万5000年前のネアンデルタール人は、土器で煮たわけではない。記事に、「樹皮や動物の皮、胃の内壁などで容器を作り、水を入れて火に掛けていた公算が大きい」とあるが、その通りだと思う。
和紙でできた紙鍋のように、獣の皮を袋にして水を入れて直火にかければ、煮ることが可能だからだ。皮又は革で実験したことはないけれども、小学生のとき、旅館で出てきた紙鍋が不思議だったので、ビニール袋に水を入れて直火にかけたことがある。水がなくならない限り、煮ることができる。
我々ホモ・サピエンスも、ネアンデルタール人と同様に、動物の脳や骨髄を食べていたことだろう。実際、古今東西、世界各国に動物の脳を食べる文化があるからだ。
その中で一番強烈なのは、『兼高かおる世界の旅』だったか『驚異の世界』だったかは、記憶が定かではないが、子供の頃に見たテレビ番組で、確かパプアニューギニアの原住民(裸族)だったと思うが、猿を捕まえて、生きたまま脳みそをストローでチューチュー吸っている映像は、鮮明に覚えている。脳を吸われているうちに、猿が白目になっていた。
さて、ユダヤ教やイスラム教が戒律で豚食を禁止しているのはなぜかという問題に戻ろう。
豚は不潔だからだという風に説明されることもあるが、豚カフェの営業が認められているように、豚は綺麗好きであり、人間が不潔な環境で豚を育てているから、豚は不潔だと思われているにすぎない。
他方で、豚は、穀物を食べる動物であるのに対して、イスラム教が食べてもいいとする牛、羊、ヤギは、草を食べて育つ。
そこで、人間と食べ物が競合する豚が増えないようにするためだと説明する説もある。
確かに、厳しい砂漠で人間が生き残るためには、豚との生存競争に勝つ必要があるけれども、牛、羊、ヤギは、草を食べ尽くして砂漠化を促進し、却って人間の生活を脅かすわけで、説得力に乏しい。
下記の記事によると、「2006年、米国の食肉加工工場で、謎の神経疾患に冒される従業員が続出した。霧状になったブタの脳を吸い込んでいたことが原因だ」。
「ブタの脳を食用に加工する工場は米国に3つだけあり、ミネソタとインディアナの工場はそのうちの2つだった。さらに、ミネソタの工場で症状を訴えた24人は全員、「頭部を扱う台」がある部屋で働いていた。[NY Timesの記事によると、工場で加工されていた脳は、主に中国と韓国に食用として輸出されていた。また、米国南部の一部でもブタの脳を食べる習慣があるという] 頭部を扱う台では、ブタの頭部を切断して開き、圧縮空気を勢いよく吹きかけて脳を取り出していた。この処理が1時間に約1400回行なわれ、脳が吹き飛ばされて細かい霧のようになっていた。 室内にいた全員が病気になったわけではない。しかし、台の近くにいた人ほど発症する傾向が見られた。」
「ブタの脳組織を吸い込むと、体内で抗体が作られる」と、労働者たちの治療に協力したメイヨー・クリニックの神経科医James Dyck氏は説明する。抗体とは、体に入ってきたバクテリアや異物を認識するため、免疫系が用いる化学物質だ。「ブタの脳と人間の脳には重複する部分がかなりある。それが問題だった」という(太字:久保)。
つまり、砂漠の民も、先史時代から動物の脳を食べていたが(現在も中東や北アフリカでは羊や子牛の脳を料理する。)、古来より、経験則上、豚の脳を取り出す過程でなぞの神経疾患に冒される危険を知っていたのではないか。少なくとも12万5000年前からネアンデルタール人は、動物の脳を食べてきたのだから、ホモ・サピエンスもかなりの経験値を積んでいるはずであり、荒唐無稽な考えとは言えないはずだ。
また、豚の筋肉(赤身)は、人を固有宿主としている有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)の幼虫(有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう))の寄生部位であり、生食すると感染する恐れがあるし、十分に火を通さないと、O157やE型肝炎の危険もある。
そこで、当時は原因不明だったから、ユダヤ教やイスラム教は、一律に豚食を禁止する戒律を作ったのではあるまいか。
これに対し、キリスト教には、戒律がない。もともとキリスト教は、ユダヤ教の一派だから、改めて豚食を禁止する必要がなかったので、豚食禁止の戒律が作られなかったのだろう。
キリスト教がユダヤ人の民族宗教であるユダヤ教の一派から世界宗教になったのは、戒律がないため、古代ローマ帝国内のローマ人やゲルマン人にとってハードルが低かったことが一因だ。お蔭で、キリスト教徒は、豚を食べられるようになった。
ところで、豚の骨髄がスープに溶け込んだ豚骨ラーメンは、誰もが食べたことがあるだろうが、動物の脳を食べたことがあるだろうか。
私は、ある。
子供の頃、京都の伏見稲荷に参拝した帰りに、名物のちゅんちゅん焼きを食べた。ミイラのような骨と皮だけのスズメを「頭から食べるんだ」と言われたので、言われたように食べた。スズメの頭を噛み砕いた。ブチュと液体が飛び出し、気持ち悪くて吐きそうになったが、吐き出すわけにもいかず、まるごと無理やり胃袋に入れた。
二度と食べたくない。
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