故事成語の語義変化

 またブログ記事が削除された。一部表現を変えて再アップする。


 粉骨砕身(ふんこつさいしん)とは、「力の限り努力すること。一所懸命働くこと。粉骨。」をいう(『精選版 日本国語大辞典』小学館)。


 「「粉骨砕身」は、中国の唐の時代に書かれた禅宗の経典である『禅林類纂(ぜんりんるいさん)』に由来します。「粉骨砕身も未だ酬ゆるに足らず、一句了然として百億を超う」という教えから生まれました。  この言葉は、「身を粉にして働いているけれども、まだお釈迦様の恩義に報いるまで達していない。お釈迦様の一句は、百億年の修行をしたのと同じくらいの価値があるのに」と訳されます。現代でも意味が通じるように言い換えると「他人の為に精一杯努力することは、難しくて尊い」ということを表しているのです。  この経典をもとにして、「粉骨砕身」という四字熟語が生まれました。」

 ところが、中国国防部報道官は、「粉骨砕身」という故事成語を用いて、Xに次のように投稿した。 

「"日本側が歴史の教訓を深く汲み取らず、

    あえて危険な賭けに出たり、

       更には軍事的に

  台湾海峡情勢に介入したりすれば、  

 必ず中国人民解放軍の鉄壁の前で 

     粉骨砕身になり、  

 多大な代償を払わなければならない。"  

   中国国防部報道官2025年11月14日

 我々日本人からすると、「粉骨砕身」の誤用ではないかと思ってしまう。


 しかし、「粉骨砕身」は、現代中国語では、

① 生命を犠牲にして物事をやる. 

② (反動的勢力などが)散々に打ち砕かれる.

③ (高い所から落ちて)体が粉々に砕けて死ぬ.

 という意味に用いられているそうだ(『中国語辞典』白水社)。

 上記の投稿は、日本側を客体として捉えているので、文脈的に、おそらく②(又は③)の意味で用いているのだろう。


 唐時代の『禅林類纂』に由来する「粉骨砕身」という故事成語は、中国では、時を経るにつれて語義変化させたのに対して、日本では、古典を大切に守り、語義変化させることなく、原義通りに今も用いているわけだ。面白い。


 なお、「(反動的勢力などが)」の「反動」とは、「歴史の進歩発展に逆行し、強圧的な手段によって旧体制の維持または復活をはかろうとする立場、ないし、政治行動。また、その立場をとる人。」をいう(『精選版 日本国語大辞典』小学館)。

 「マルクスは歴史を〈革命を媒介とする非連続的な進歩〉としてとらえ,革命に反対する反動こそ進歩への反動であると説く」(『改訂新版 世界大百科事典』平凡社)。


 参考までに、「中国人民解放軍 対日攻撃概念図」を載せておく。

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