「友達以上恋人未満」

 国の法令であろうと、自治体の例規であろうと、現場を一番よくご存知の原課の職員さんたちが、誰が読んでも間違いないように原案を作成し、課内で何度も推敲し、法規担当者も推敲し、議会もチェックしているから、行政実務では、9割ぐらいは文理解釈(文言解釈)すればよい。

 ただ、国語通りが原則だといっても、法制執務上の一定の約束事や紛らわしい法令用語がある。


 そこで、初心者向けの研修では、次のように訊ねるようにしている。


【問題】「友達以上恋人未満」という文章の正しい理解はどれか?

A  友達であるが、恋人ではない。

B  友達であるだけでなく、恋人である。

C  友達ではなく、恋人でもない。


 受講者の職員さんたちは、Aの「友達であるが、恋人ではない」と正しく回答なさるのだが、一人だけCの「友達ではなく、恋人でもない」と回答なさったので、理由を訊いてみたら、「友達以上の存在だから、より親密な親友を指すからだ」とおっしゃるので、「なるほど、そうきたか!」と感心した。狙い通りの回答だ。勇気を出して回答してくれると、解説し甲斐があり、受講者全員の理解も深まる。


 「以上」の「以」の訓読みは、「もっ」・「もち」しかないので、「以上」という漢語を訓読みで読み下すことができない。


 「以」という漢字には、次のような意味がある(『角川新字源』)。

①…から。…より。時間・範囲・方向の起点を示す語。「以来」「以往」「以内」「以上」「以西」 

②もって。…を。…によって。目的・手段・原因を示す語。「以心伝心」 

③もってする。もちいる。使う。 

④おもう。おもうに。 

⑤ゆえ。理由。


 つまり、「以上」の「以」は、起点自体を指す①の意味であって、「ある時・所等を起点としてそれより上」ということを表すので、起点(基準点)を含むわけだ。これは、国語でも算数でも法制執務でも同じだ。

 従って、「友達以上恋人未満」の正しい解釈は、Aの「友達であるが、恋人ではない」ということになる。


 ただ、日常生活では、例えば、「予想以上の出来だ」、「期待以上だった」、「これ以上やったら怪我をする」などのように、「以上」を「〜を超える」という意味で用いることがある。起点(基準点)である「〜」を含まないわけだ。

 前述した「友達以上」は、友達よりも親密な親友を指すという回答も、「以上」を「〜を超える」という意味に解釈した結果なのだ。


 「以上」を「〜を超える」と解釈することは、国語としては、間違いではないが、法制執務においては、「以上」は、起点(基準点)を含むので、間違いということになる。

 9割国語通りに解釈すればよいとはいえ、法制執務上の一定の約束事があるというのは、このような意味なのだ。


 この問題に関連して、NHK放送文化研究所の「8日以降に手続き」は,8日を含む? 含まない?、という記事が面白い。

 「以降」は、「以前」・「以後」と同様に、起点(基準点)の日時を含む点で、国語通りに解釈すればよいのだが、法制執務では、制度上、毎年又は定期的に継続して行われる事項を規定する場合に用いられる点で、国語とは異なるので、注意を要する。これも、法制執務上の一定の約束事の一つだ。

 ex.地方財政法第4条の2 地方公共団体は、…当該年度のみならず、翌年度以降における財政の状況をも考慮して、…





 

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