条例による規則への委任の限界〜特別休暇を例に考える〜

1 国の委任立法の限界

⑴   白紙委任の禁止

 原則として、「一般的・包括的な白紙委任は禁止され、個別的・具体的な委任のみ許され る(憲法四一条・三一条との関係)。したがって、法律(授権法)に「目的」と受任者の拠 るべき「基準」を定めることが必要であるが、ただ、基準の適切性の判断は、委任された権 限の大小、詳細な基準を法律で定めることの実効性(立法過程と行政過程のいずれが問題の 解決に適しているか否か)、受任者の裁量の濫用に対する保護の有無、委任事項の内容(罰 則か否か)等の要件に左右される。」(芦部信喜著『演習憲法』(有斐閣)244頁。太字:久保)。

⑵  再委任の禁止

 再委任については、「法律に明文の規定がない場合にも、止むを得ない合理的理由があり、 受任者の実質的な裁量の余地が厳しく限定されていれば、政令が受任事項を府令・省令に再 委任することは許される。」(芦部・前掲245頁。太字:久保)。


条例が規則に委任する場合に、上記の国の委任立法の限界に関する理論がそのまま当てはまるのか?

 この点、地方自治法の教科書レベルでは全く議論されていない。上田章・笠井真一著『条例規則の読み方・つくり方 第2次改訂版』(学陽書房)158頁・159頁には、次のように説かれている。

 「法律と委任命令との関係においては、委任命令は、本来法律をもって規定すべき事項を法律の委任に基づいて定めた命令であるから、国会中心主義をとる憲法の趣旨からいって、実質的に国会の立法権を没却するような無制限な一般的、包括的な委任は、許されないと解すべきものである。条例が特定の事項を規則に委任する場合においても、右の原則が当てはまると解すべきであろう。もちろん、条例と規則との関係は、法律と命令との関係と全く同一に論ずべきではない。条例と規則は、それぞれ自治立法の二形式として、制度的にも、知事の公選制によって、規則のもつ民意の代表性も、一応は保障されているからである。しかし、先に述べたように条例の委任に基づく規則も、条例を実施するための規則も、もとより条例に違反することはできない。規則への委任を定める場合には、条例の補充的規定や条例の具体的、特例的事項等に限定し、単純な包括的委任の規定を設けることは、行うべきではない。」 (太字:久保)


 思うに、国の場合には、国会が国民代表機関であり(憲法第43条第1項)、「唯一の立法機関」 (憲法第41条)であるとされているのに対して、普通地方公共団体の場合には、議会も 長も、住民の直接選挙によって選ばれた住民代表(憲法第93条第2項)であって(二元 代表制、首長制、大統領制)、憲法第94条にいう「条例」には、議会の議決に基づく条 例(地方自治法第14条第1項)だけでなく、長その他の執行機関が制定した規則その他 の規程(地方自治法第15条、地方公務員法第8条第5項、地方教育行政の組織及び運営 に関する法律第14条、警察法第38条第5項、地方自治法第194条など)も含まれると解 されている。

 したがって、「法律と法規命令との関係」と「条例と規則との関係」を単純に同一視することはできないので、国の委任立法の限界に関する理論は、条例による規則への委任にはそのまま当てはまらないと考える。

 しかし、国の法令が条例で定めるべきであるとした事項(条例事項)について、条例による規則への白紙委任が許されるとすれば、「重要事項については、住民代表議会で議論し、決 定すべきという考え」(宇賀克也著『地方自治法概説[第5版](有斐閣)206頁』) に基づいて、国の法令が条例事項とした趣旨を没却するから、国の法令が条例事項と定めたもののうち、重要な事項については、国の委任立法の限界に関する理論が緩和された形で妥当すると考える。

※  この点、「条例に任せられた趣旨は、自治体において、民主的議論を経ての自治的決定・政治的決定がされる べきということであるから、決定内容のいかんにかかわらず条例を「スルー」して、実質的にすべてを規則に委 ねたとすれば、当該条例は違法である。条例本則での決定がされるべき事項が何であるべきかを具体的に示すの は難しいが、当該自治体にとっての「重要事項」はそれにあたるといえるだろう。重要事項留保・本質性留保の 発想である。」(北村喜宣著「分任条例の法理論」自治研究89巻7号、27頁。太字:久保)というご説明 も、同旨であろう。


 北村教授が「具体的に示すのは難しい」と述べられているのに、私如きが示すのはおこがましいが、上記芦部先生の結論を緩和させれば良いのではなかろうか。

 ①条例(授権法)には、受任者・発令形式、目的・対象事項及び受任者が拠るべき基準を定めた上で委任しなければならず、後二者の程度は、前述したように国の委任立法に比べて緩やかでよいと考えられるから、少なくとも例示列挙が必要であろう。

 ②また、条例事項についての条例による規則への委任は、再委任に当たる。前述したように国の委任立法に比 べて緩やかでよいと考えられるから、再委任を必要とする合理的理由があり、受任者の実質 的な裁量の余地が限定されている必要があろう。


3 地方公務員の特別休暇の場合

⑴   勤務条件条例主義   

  地方公務員の勤務条件については、条例で定めなければならない(地方公務員法第24条第 5項。勤務条件条例主義)。

cf.地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号) 第二十四条第五項 職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める。   

∵ ・ 「公務員の権利保障と同時に、議会、究極的には住民による民主的統制を確保し ようとする」趣旨である(晴山・西谷編『別冊法学セミナー 新基本法コンメンタ ール地方公務員法』(日本評論社)106頁。太字:久保)。     

 ・ 「住民の負担につながる問題である以上、住民の同意を条例の形式によって得る ことと、条例という法規範によって職員の勤務条件を保障することの二点が目的で ある。」(橋本勇著『新版逐条地方公務員法<第2次改訂版>』(学陽書房)354頁。 太字:久保)。


⑵   勤務条件条例主義と規則への委任(晴山・前掲107頁。)  

A 「勤務条件条例主義の場合、地方自治の保障として、自治組織権が保障され、規則は公選 の長が制定するものであることから、規則への委任は、法律による政令等への委任よりも広 い範囲で認められるべきである」とする説(晴山一穂。太字:久保)。  

B 「他方で、「自律的労使関係」との関係でのものであるが、執行機関と議会との間の判断 が一致しない頻度、財政・財産管理に関する地方議会の権限や責任に注目して、給与等の定 めに関し規則等に大幅に委任を行うことには、「こうした法制度が意図する地方公共団体に おける民主的な財政統制を弱める点で、問題」であるとする説(山本隆司。太字:久保)。   

※ 前掲・橋本366頁は、「職員の勤務時間などについても、給与と同様に条例で定めなければならない(本条 6)。その趣旨も給与と同じであり、勤務時間などを職員の権利として法令で保障することおよびこれが住民 の負担や利便につながる問題であることから、住民の代表である議会の意思決定によるものとされているので ある。したがって、勤務時間などを全面的に規則で定めるよう条例で委任することはできない(行実昭二七・ 一一・一八自行公第九六号)。」とする(太字:久保)。


 思うに、勤務条件については、当局と職員団体との団体交渉の結果を踏まえて内容が決められるこ とが通例であること、情勢適応の原則(地方公務員法第14条第1項)及び均衡の原則(地方 公務員法第24条第2項・第4項)から、迅速かつ柔軟に対応できるように規則への委任を認 めるべき必要性は否定できない。

 しかし、勤務条件条例主義の趣旨に鑑みて、条例による規則への委任を、安易かつ広汎に 認めるべきではなく、団体交渉の経緯・過程や、情勢適応の原則及び均衡の原則に適合して いるかどうかをも含めて公開の議会で議論された上で、条例で定められるべきものであるか ら、B説を支持する。


⑶   特別休暇の意義  

 「職員が特別の事情または条件により勤務を要する日に法律または条例に基づいて職務専 念義務を免除されることを広く休暇という。休暇には、年次有給休暇、病気休暇、特別休暇 および介護休暇の四種類がある(条例案一三)。休暇は、年次有給休暇のように事由を限ら ずに与えられる無因性の休暇と、事由を限ってそのつど与えられる有因性の休暇とに分ける ことができ、また、給料が支給されるか否かにより、有給休暇と無給休暇とに分けることが できる。」(前掲・橋本386頁)。   

 「特別休暇は、前記⑵の病気休暇および後述⑷の介護休暇を除くすべての有因性の休暇で あり、選挙権の行使、結婚、出産、交通機関の事故その他の特別の事由がある場合に認めら れる(条例案一六)。特別休暇は、本条第六項の条例およびその委任に基づく人事委員会規 則(人事委員会を置かない地方公共団体は任命権者の規則)で具体的に定められるが、職員 は公務を優先することが原則である以上、真にやむを得ない公的な要請または社会通念上妥 当とされる個人的事情がある場合に限って認めることとすべきである。」(前掲・橋本391 頁)(太字:久保)    

 

cf.職員の勤務時間、休暇等に関する条例(案)(平成6・8・5自治能第65号)      

(休暇の種類)       

第十三条 職員の休暇は、年次有給休暇、病気休暇、特別休暇及び介護休暇とする。      

(特別休暇)       

第十六条 特別休暇は、選挙権の行使、結婚、出産、交通機関の事故その他の特別の事由により職員が勤務しないことが相当であ る場合として人事委員会規則で定める場合における休暇とする。この場合において、人事委員会規則で定める特別休暇に ついては、人事委員会規則でその期間を定める。


⑷   特別休暇についての条例による規則への委任

  特別休暇についての条例による規則への委任は再委任でもあるので、①白紙委任の禁止と ②再委任の禁止を明確に分けて論ずることは困難であるが、①前述したように、特別休暇は、 「真にやむを得ない公的な要請または社会通念上妥当とされる個人的事情がある場合に限っ て認めることとすべきである」から、特別休暇について、条例による規則への委任を定める 場合には、受任機関・発令形式だけでなく、「真にやむを得ない公的な要請または社会通念 上妥当とされる個人的事情がある場合」を少なくとも例示列挙して対象事項を明らかにする とともに、例えば、「その他のやむを得ないと認める場合」のように受任者が拠るべき基準 を明らかにしなければならないと考える。

 ②また、特別休暇に関する条例による規則への委任は再委任でもあるので、例えば、特別 休暇の時間又は期間を委任する場合には、委任を必要とする合理的理由があり、「やむを得な い期間」というような特別休暇の時間又は期間を定めるにあたっての基準を明らかにする必 要があると考える。


⑸   大阪府における特別休暇

  大阪府及び大阪府内の市町村(33市9町1村の計43)の例規集を調査してみた。批判・非難が目的ではないので、自治体名は明らかにしない。

ア そもそも条例がなく、訓令で定めているE

  今更、規則に委任する条例案を議会に提出すると、議会から手厳しいご批判を浴びるであろうことは容易に想像できるが、特別休暇に関する条例がなく、訓令で特別休暇を定めることは勤務条件条例主義に明らかに反し、違法なので、改めて欲しいところである。


イ 条例に「特別休暇」とあるだけで規則に委任していないD

ex.(休暇の種類)

第8条 職員の休暇の種類は、次に掲げるとおりとする。

(1) 年次有給休暇

(2) 特別休暇

(3) 介護休暇

(規則への委任)

第10条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。


 条例に委任規定を定めずに、規則で特別休暇を定めている点で、勤務条件条例主義に違反する。条例中の「この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。」という規定が委任規定であると立法者が考えている可能性があるが、仮にそうであるとすれば、その考えは妥当でない。「この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。」という規定は、条例を執行するにあたっての細目(書式や手続等)を念のために規則に委任しているものにすぎないからである(この規則は、国の法規命令に喩えれば、執行命令(実施命令)に相当するものである。)。


ウ 条例で例示列挙せずに委任しているC

ex.(特別休暇)

第14条 職員は、前2条に規定するもののほか、特別の理由がある場合には規則の定めるところにより、任命権者の承認を得て特別休暇を受けることができる。

(施行の細目)

第17条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。


   特別休暇の例示列挙すらなく、「特別な理由」とあるだけで受任者が拠るべき基準もない以上、白紙委任の禁止に違反し違法ではなかろうか。また、期間又は時間等の基準の定めがなく受任者の裁量権が限定されていないので、再委任の点でも違法ではなかろうか。

 Cは、職員の勤務時間、休暇等に関する条例(案)(平成6・8・5自治能第65号)第 16条(前掲)又は国家公務員に関する「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関す る法律(平成六年法律第三十三号)」第19条の規定の例示列挙の意義を理解せずに例示列挙部分を削除しているように思われる。しかも、条例では実質的に何も定めずに全て規則へ委任 しており、残念である。


cf.1 一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律(平成六年法律第三十三号)

(特別休暇)

第十九条 特別休暇は、選挙権の行使、結婚、出産、交通機関の事故その他の特別の事由により職員が勤務しないことが 相当である場合として人事院規則で定める場合における休暇とする。この場合において、人事院規則で定める特 別休暇については、人事院規則でその期間を定める。        cf.2 人事院規則一五―一四(職員の勤務時間、休日及び休暇)(平成六年人事院規則一五―一四)


エ 条例で例示列挙した上で委任しているB2

ex.(特別休暇)

第14条 特別休暇は、選挙権の行使、結婚、出産、交通機関の事故その他の特別の事由により職員が勤務しないことが相当である場合として規則で定める場合における休暇とする。この場合において、規則で定める特別休暇については、規則でその期間を定める

(規則への委任)

第19条 第12条から前条までに規定するもののほか、職員の勤務時間、休暇等に関し必要な事項は、規則で定める。


   Bは、条例で特別休暇を例示列挙した上で規則に委任している点で、限定列挙しているAに比べて委任の範囲が広いが、例示列挙により受任者が拠るべき基準が読み取れるので、白紙委任とまでは言えないのではなかろうか。再委任については、B2は、期間又は時間等を限定しておらず、歯止めがないため、違法ではなかろうか。

 B2は、職員の勤務時間、休暇等に関する条例(案)(平成6・8・5自治能第65号)第 16条(前掲)又は国家公務員に関する「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関す る法律(平成六年法律第三十三号)」第19条を吟味せずに、人事委員会を置かない市町村 に合わせて字句の修正をしただけのコピーアンドペーストにすぎない。条例の制定年月日か ら見て、平成11年の地方自治法改正前における国と地方公共団体との上下主従関係に由来 する「お上(国)がなさることには間違いがない」というような前時代的意識が働いていた のかも知れない。


オ 条例で具体的に例示列挙した上で委任しているB1

ex.(特別休暇)

第十五条 任命権者は、職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該各号に定める期間の特別休暇を与えることができる。

一 裁判員、証人、鑑定人、参考人等として国会、裁判所、地方公共団体の議会その他官公署に出頭する場合 必要と認める日又は時間

二 選挙権その他公民としての権利を行使する場合 必要と認める日又は時間

三 出産する場合 その出産予定日以前八週間から出産後八週間を経過する日までの期間内で必要とする期間

四 生後一年六月に達しない生児を育てる場合 一日二回とし、一の回について三十分、他の回について一時間

五 女性である職員が生理のため勤務が著しく困難である場合 一回について二日以内で必要とする期間

六 前各号に掲げるもののほか、人事委員会規則で定める場合

(委任)

第二十条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、人事委員会が定める。


 前述したようにBは、条例で特別休暇を例示列挙した上で規則に委任している点で、限定列挙しているAに比べて委任の範囲が広いが、例示列挙により受任者が拠るべき基準が読み取れるので、白紙委任とまでは言えないのではなかろうか。再委任については、B1は、期間又は時間等を限定しているので、裁量の歯止めがあると言える。


カ 条例で限定列挙した上で委任しているA

ex.1(特別休暇)

第6条 任命権者は、職員が特別な事由により勤務することができない場合には次に掲げる特別休暇を与えることができる。ただし、その期間又は時間等の基準は、規則で定める

(1) 結婚休暇

(2) 出産休暇

(3) 生理休暇

(4) 妊娠中等の職員の通院休暇

(5) 妊娠中の職員の通勤緩和休暇

(6) 服喪休暇

(7) 父母の祭日休暇

(8) 育児参加休暇

(9) 育児休暇

(10) 病気休暇

(11) 介護休暇

(12) 介護時間

(13) ドナー休暇

(14) 夏季休暇

(15) リフレッシュ休暇

(16) 子の看護休暇

(17) その他の特別休暇

(規則への委任)

第7条 この条例の施行について必要な事項は規則で定める。

ex.2(特別休暇)

第11条 任命権者は、職員が次の各号のいずれかに該当する場合は、当該各号に定める時間又は期間の特別休暇を与えることができる。

(1) 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)により、交通が制限され、若しくは遮断され、勤務することができない場合又は入院する場合 やむを得ないと認める時間又は期間

(2) 公の選挙又は投票において選挙権又は投票権を行使する場合 必要と認める時間又は期間

(3) 裁判員、証人、鑑定人、参考人等として国会、裁判所、地方公共団体の議会その他官公署へ出頭する場合 必要と認める時間又は期間

(4) 公務上の負傷又は疾病のため勤務することができない場合 やむを得ないと認める時間又は期間 (5) 法令で定める場合その他任命権者がやむを得ないと認める場合 やむを得ないと認める時間又は期間

(委任)

第14条 この条例の施行について必要な事項は、任命権者が定める。


 ex.1は、各特別休暇の定義規定を欠いている点が残念であるが、条例で特別休暇を限定列挙している点は勤務条件条例主義に適う。また、「特別な事由により勤務することができない場合」という受任者が拠るべき基準を明らかにしており、白紙委任の禁止には抵触しないと考える(果たしてリフレッシュ休暇が「特別な事由により勤務することができない場合」と言えるのかについては疑問がある。)。

しかし、特別休暇の期間又は時間は特別休暇の重要事項であるにもかかわらず、「その期間又は時間等の基準」を規則に委任している点で、裁量の歯止めがない以上、再委任の禁止に抵触するのではなかろうか。


 ex.2は、第11条第1号から第4号まで特別休暇の定義規定を置いて限定列挙しており、また、「やむを得ないと認める時間又は期間」というように受任者が拠るべき基準ないし特別休暇の時間又は期間を定めるにあたっての基準を明らかにしているが、残念ながら委任規定を欠いている。

これに対して、第11条第5号は、受任者が定められているので、委任規定があると言えるが、「法令で定める場合その他任命権者がやむを得ないと認める場合」という表現には疑問が残る。「その他の」であれば、「法令で定める場合」という例示列挙があるので、問題はないのであるが、「その他」とあるので、「任命権者がやむを得ないと認める場合」の例示列挙がないことになり、白紙委任の禁止に抵触するおそれがあるからである。


⑹  調査結果に関する所感    

  愚見によれば、B1のみが合格ということになってしまった。愚見や各条例の評価について賛否両論があるであろうし、愚見が絶対に正しいとは思っていない。ましてや自治体を批判・非難するつもりは毛頭ない。

 ただ、同じ大阪府内の自治体でこのように特別休暇に関する条例による規則への委任の対応が大きく分かれてしまった原因としては、最高裁判決の影響が大きいのではないかと考えている。

 国家公務員の政治的行為を制限する国家公務員法第102条第1項について、最高裁は、 「政治的行為の定めを人事院規則に委任する国公法一〇二条一項が、公務員の政治的中立 性を損なうおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するも のであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうる」と述べて、国家公務員法第102 条第1項の委任そのものが委任立法の限界に違反しないという立場を明確に打ち出した(最 判昭49・11・6刑集28巻9号393頁。猿払事件)。     そのため、従来、白紙委任の禁止に違反すると強く疑われていた国家公務員法第102条 第1項ですら白紙委任に当たらないとされた以上、条例による規則への委任はもっと広く 認められるはずだという思い込みや、この問題への無関心が生まれたのではないか。  


cf.国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)

第百二条第一項 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てす るを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはな らない。


 A及びB1のように問題意識を持って例規作成に取り組んでいる自治体もあることから、条例による規則への委任の限界に対する関心を高めて議論を深め、知識を共有し、実務への応用を図ることが重要であろう。これが当該調査結果を公開した趣旨である



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