元生徒 せんせい、ごきげんよう♪
老先生 自治法子ちゃんか!こんにちは。おめかししてどうしたんじゃね?
元生徒 学生時代の友人たちと女子会ですの♪ その前に先生とおしゃべりしようと思って、早めに参りましたのよ♪笑
老先生 その格好で役所仕事をしておったのかの?
元生徒 いいえ、とんでもございません。お仕事が終わってからロッカールームで着替えましたわ♪
老先生 ふむ。それならば問題ない。
通勤途中は、勤務時間(雇い主の指揮監督下にいなければならない時間)ではないので、例えば、自宅から出張先へ直行する場合など、その労働の性質上やむを得ないような場合を除き、通勤途中の服装は自由じゃからの。ただ、いくら自由とは言っても、信用失墜行為の禁止(地方公務員法第33条)は、私生活上の行為にも及ぶので、通勤途中の服装が信用失墜行為に当たる場合もあり得るから、あくまでも良識の範囲内での自由にすぎないことに留意すべきじゃ。
そなたの市役所には服装に関する例規があるかの?
元生徒 技術職や消防職等に貸与する被服に関する規則があるだけです。
服装については、採用時に、職員ひとり一人が市役所を代表しているのだと常に意識して、来庁者に不快な思いを抱かれたり信頼を損なったりすることがないように品位を保ち、常識の範囲内の服装をするようにと言われました。
老先生 そなたの市役所の人事課は、しっかりしておるようじゃ。
市役所の仕事は、お色気でするものではないから、ミニスカートや胸元が広く開いた服のような露出が多い服装は、品位を欠き、非常識じゃ。ご本人は、男性の気を引くためではなく、自分に気合いを入れるための戦闘服なんだと弁明するかもしれんが、周りの男性職員は、目のやり場に困るから、協調性にも欠ける服装じゃと言えるの。また、不潔な服装も、品位を欠き、非常識じゃな。
派手なアクセサリーやブランド品をこれ見よがしに身に付けて、生活に困窮しておられる住民の相談に乗っても、住民の信頼を得ることが難しい場合があろうし、装身具が原因で安全かつ能率的な職務遂行が妨げられる場合もあろうから、これも非常識じゃな。
しかし、こういう非常識な格好をしておる職員をたまに見かけるので、残念に思うておる。採用面接や試用期間中もリクルートスーツを着用しておったはずじゃが、正式採用された途端に非常識な格好をするような裏表のある人物の本性を見抜けずに合格させた面接官も、大いに反省すべきじゃな。
元生徒 確かに、先生が挙げられた例は、おっしゃる通りですが、男性はともかく、女性の服装については、「常識の範囲内」が曖昧なので、職場の先輩の服装を参考にしながら着ているのですが、服選びには困りますわ。
老先生 制服があれば、服選びに悩まずに済むんじゃろうが、財政難等の理由から、制服を廃止する自治体が増えたし、最近のクールビズ・ウォームビズが服装の乱れに拍車をかけておるからの〜
そもそも女性の社会進出自体が日が浅いから、女性職員の仕事着に関する常識形成が未熟なのかも知れんの。
19世紀末頃までは、欧米の上流階級の女性は、自分では動かずに執事やメイドを使い、仕事は卑しいことであるとして就職が禁止され、つばの広い帽子を被って、コルセットでウェストを絞り上げ、裾を引きずるロングドレスを着用しておった。
しかし、20世紀に入り、第一次世界大戦によって戦争の様相が一変し、軍隊同士の戦争から国民すべてを巻き込んだ総力戦になったもんじゃから、女性も社会に出て働かざるを得なくなったため、女性の役割と意識が変わり、その結果、女性の社会的地位が向上し、その後の女性の参政権実現へとつながるわけじゃが。
その際に大きな役割を果たしたデザイナーがおるんじゃが、誰だか分かるかの?
元生徒 ココ・シャネルですわ♪
コルセットをなくして、従来喪服に使われていた黒を大胆に用い、動きやすいくるぶし丈のスカートと小さなお帽子に短い髪という斬新な「ギャルソンヌ」スタイルを先駆けし、一世を風靡したそうですわ♪
老先生 さすが自治法子ちゃんじゃの。髪を切って、従来に比べて働きやすい服装で、男のように社会で働いたから、「ギャルソンヌ」すなわち少年(ギャルソン)のような娘、つまり「おてんば娘」と呼ばれたわけじゃな。
シャネルは、孤児院で育ち、高級娼婦をして苦労したからこそ、女性の経済的自立への強烈な願望が「ギャルソンヌ」を生み出し、当時の世相を反映して女性たちの支持を得たのかも知れんの。
この「ギャルソンヌ」の特徴は、なんじゃろうか?
http://blog.livedoor.jp/mukashi_no/archives/48921198.html
元生徒 胸元を強調せず、ウェストは低く絞らず、寸胴のような服で、髪が短いってことかしら?
今から見ると、とてもお洒落でエレガントですけど、黒を基調とするなど、華美にならないようにしていたように思いますわ♪
老先生 うむ。戦争中じゃったし、女性が男性社会に進出する上で、職場の男性に女性を意識させないような配慮がなされていたと言えるの。
さて、残忍で陰鬱な第二次世界大戦が終わると、主戦場だったヨーロッパでは、女性たちが職場から家庭に戻り、長年の抑圧から解放され、華美な服装を求めるようになったんじゃ。
そこで、登場する有名デザイナーは、誰かの?
元生徒 クリスチャン・ディオールですわ♪
老先生 ほ〜その特徴はなんじゃね?
元生徒 胸元を強調し、ウェストを絞った「ニュールック」ですわ♪
http://www.dior.com/
老先生 うむ。「ギャルソンヌ」と比べると、「ニュールック」は、女性の美しい曲線美が強調されたエレガントで華麗な装いじゃの。わしは好きじゃよ♪笑
しかし、年老いたココ・シャネルは、これが気に入らなかったそうじゃ。せっかく女性の社会進出を促進したというのに、クリスチャン・ディオールという男のせいで、再び女性が男性に媚を売り守られる存在に戻ってしまったではないか、何が「ニュールック」だ、昔に戻っただけではないかと思ったのかも知れぬ。
まあ、捨てる神あれば拾う神ありで、ヨーロッパでは相手にされなくなったシャネルが、女性の社会進出が目覚しい個人主義の国、アメリカ合衆国で評価されたんじゃが。
その後、女性の服装史に大きな足跡を残したデザイナーがおるんじゃが、分かるかの?
元生徒 ディオールが亡くなって、ディオール社の後継者となった若きイヴ・サンローランですわ♪
彼は、女性はスカートを穿くべきだという従来の固定観念を覆し、パンツスーツを提案したんですもの。
http://maquisato.com/yves-saint-laurent-pants
老先生 そうじゃの〜。パンツは女性の腰のくびれとヒップを逆に強調するものじゃから、イヴ・サンローラン自身は、女性の曲線美を強調するディオール流の服装の延長線上でパンツスーツを提案したようじゃが、当時のウーマン・リブ運動家たちは、そうは考えずに、ココ・シャネルが女性に自由を与え、イヴ・サンローランが女性に権力を与えたと絶賛したようじゃの。
しかし、女性が男装したからといって、男性と対等になるわけではないし、もし女性が男装しなければ相手に失礼だ、男装がマナーだというのであれば、これも変な話じゃ。よく考えてみたら、女性が男装しても変態扱いされないのに、男性が女装したら、変態扱いされるのも変な話じゃの。笑
このようにざっくりと女性の服装史を振り返ってみただけでも、男性の服装に比べて、女性の服装は流動的で固定化しておらんので、確かに「常識の範囲内」が不明確じゃの〜。
将来的には、性を意識させないように、男女ともに、毛布を頭からかぶったような寸胴で体の線が出ない中性的な服を着て仕事をするようになるかも知れんの。
元生徒 多分そのような服は女性の支持を得られませんわ!笑
老先生 はっはは!笑
男と女という別の生き物が同じ職場で仕事をする上で最もふさわしい服装とは何かが決まるには、時間がかかりそうじゃが、国際的には一定のコンセンサスが得られておる。
元生徒 それはなんですの?
老先生 国際儀礼(プロトコール)じゃよ。外交や国際交流の場では、歴史・文化・言語等の違いから誤解・不信・争いが生まれやすいから、相手への敬意とすべての国を平等に扱うために、国家間の儀礼・マナーが伝統的に形成されてきたんじゃ。先人たちの知恵じゃな。
公式な国際舞台では多くの女性たちが活躍しておるから、同様に公式なお仕事(公務)をしておられる女性職員は、国際儀礼が「常識の範囲内」であると考えて「平服」を着用すればいいんじゃよ。今後、外国人労働者が増えるそうじゃから、その意味でも国際儀礼に則って「平服」を着用するのが望ましいの。
外務省のHPにある「プロトコールの基本」には、次のようにある。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/inspection/protocol.html
ただし、注意しなければならないのは、「平服」の意味を誤解してはならんということじゃ!
本来、「平服」は、平常着る服を意味し、儀式などに着用する「礼服」の対義語なんじゃが、平常着る服だからということで、普段着と勘違いしている人がたまにおる。上記表にもあるように、平服は、普段着ではなく、「略(礼)装」のことなんじゃ。
元生徒 そういえば、卒業パーティーの案内状に「平服でお越しください。」とあったからと、普段着のジーンズ姿で出席した男子たちがいましたわ!
老先生 その男子たちは、さぞや恥ずかしい思いをしたじゃろうが、それも良い経験じゃ。
かくいうわしも、学生時代に服装について先生から叱られたことがあるんじゃ。
元生徒 先生がですか???
老先生 うむ。たまたまジーンズを穿いて受講したら、「ジーンズは、アメリカの金鉱掘りの作業着です。学問をするのにふさわしくありません。TPOを弁え給へ。」と叱られ、己の不明を大いに恥じたものじゃよ。苦笑
じゃから、あまり偉そうなことは言えんのじゃが、よく見かける普段着を着ている女性職員には「平服」を着用して欲しいものじゃ。
この点、千葉市役所は、「千葉市職員のための接遇マニュアル」を作成して、写真入りで服装の基本を定めておるから、大いに参考になるじゃろう。
ただし、流行なのじゃろうが、女性のジャケットの丈が若干短いのが良くないがの。ジャケットの丈は、気を付けの姿勢で指を伸ばして、中指の第一関節のところがベストとされておるからじゃ。上記イヴ・サンローランのパンツスーツのジャケット丈もそうなっておろう。
https://www.city.chiba.jp/somu/somu/seisakuhomu/shisei/documents/setsuguumanyuaru3.pdf
元生徒 写真入りでとても分かりやすいですわ♪
老先生 うむ。勤務時間中の職員の行動は、常に職務権限に基づく公式な行動なのじゃから、公務をするのに普段着を着用するのは、公私混同の第一歩じゃ!
普段着姿の女性職員が多い役所は、職員の不祥事が相対的に多いような気がする。一見して明らかな服装すらも公私混同を許す職場風土が不祥事を誘発しておるのかも知れぬの。
仕事着・制服だと割り切って、仕事中は上記写真のような服装をし、仕事が終わったら、信用失墜行為にならない範囲内で好きな格好に着替えたらよかろう。
元生徒 はい、そう致します♪
服装に悩んでいたので、今日お伺いして、本当に良かったですわ♪
老先生 女子会は何時からじゃね?
元生徒 あら!もうこんな時間!
老先生 慌てるとろくなことがない。足元に気を付けて行きなさい。
元生徒 はい、ありがとうございます。
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