2021.09.29 23:36「保証」と「保障」1 法律学における「保証」と「保障」 法律学を学び始めた頃に戸惑った言葉の一つが「保証」と「保障」だ。 「保証」とは、一定の債務が履行されない場合に、その債務を主たる債務者に代わって履行する義務を負うことをいう(ex.民法第446条第1項)。cf.1民法(明治二十九年法律第八十九号)(保証人の責任等) 第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。 これに対して、「保障」とは、相手方の地位、立場、権利利益等に保護を...
2021.09.28 23:13「意志」と「意思」 クレジットの話ばかりしていると、気が滅入るので、話題を変えよう。 法律学を学び始めたときに戸惑った言葉の一つが「意思(いし)」だ。日常生活では「意志」を用いているからだ。 慣れというものは恐ろしいもので、当初は違和感を覚えた「意思」を今では当たり前のように使っている。苦笑 「意志」も「意思」も、古来より、支那(しな。chinaの地理的呼称。)、そして日本で用いられており、意味が異なる。 「意志」は、紀元前2世紀に淮南(わいなん)王の劉安(りゅうあん)により編纂された『淮南子(えなんじ)』が初出で、目的のはっきりした考え、あることをしたいという思い、こころざしという意味で用いられている。 「意思」は、紀元後1世紀に王充(おうじゅう)が書いた『論衡(ろん...
2021.09.28 05:50クレジット その41 質屋の元祖 前述したように、春に穀物の種を貸し付けて、秋の収穫時に利子を付けて穀物で返済することを出挙(すいこ)と呼んだ。 当初は、国家が行う公出挙(くすいこ)が主流だったが、やがて民間でも貴族や寺院などが出挙を行うようになり、これを私出挙(しすいこ)と呼んだ。 そして、貨幣が流通するようになると、資本を蓄えた元遣隋使・遣唐使の留学僧・留学生などが、金利計算ができる能力を活かして、支那(シナ。chinaの地理的呼称。)から学んだ質(しち)を営むようになる。 平たく言えば、質というのは、貸主が借主にお金を貸す際に、返済の約束を守る担保として(借金のかたとして)、借主からその所有物(質物、しちぐさ)を預かって、返済期日を過ぎても借金の返済がない場合には...
2021.09.26 06:16クレジット その3 貨幣が流通するようになると、金貸しが登場するようになる。我が国最初の貸金業者は、仏教寺院だと言われている。 大仏を建立しようとなさった聖武天皇にとって、大仏に鍍金(ときん)するための金を如何に確保すべきかが悩みの種だった。 ところが、天平21年(749年)、陸奥国(むつのくに)で金鉱が発見されたため、聖武天皇は、これを大いに喜ばれ、年号も宝を感謝する「天平感宝」に改められるとともに、仏教を布教させるため、お経を転読し講説する催しを行うよう寺院に求めて、そのための資金(修多羅供銭(すたらぐぜん))として、奈良の薬師寺、興福寺、東大寺などの12寺に対して、絹、真綿、麻、稲、田地などを大量に寄贈なさった。 田地はなくならないが、絹などの動産は、...
2021.09.24 22:10クレジット その2 我が国においても、古代より「出挙(すいこ)」と呼ばれる消費者金融が行われていた。穀物の種を貸し付けて、収穫後に利子を付けて収穫物で返していたわけだ。 『日本書紀』孝徳天皇二年の條に「貸稲(いらしのいね)」と見えるが、官稲を民に貸すことが国史に顕れた最初の事例だ。 もともと出挙は、集落内で行われていた慣習だった。すなわち、凶作に備えて集落の倉庫に蓄えた穀物の種を新しい種と入れ替えるために、蓄えていた穀物の種を集落の住民に貸し付けて、収穫後に利子を付けて収穫物で返していたらしい。 ※ 「出挙」の語源は、よく分からない。 『古語辞典<新訂版>』(旺文社)によると、出挙の「出」は、公私の財物・穀物を貸し付けるという意味であり、「挙」は、借用する...
2021.09.24 11:04クレジット その1 ブログを更新しないのですかというメールがあった。う〜ん、ブログを日課にしているわけではなく、気が向いたときに書いているだけなのだが。。。元気にしておりますので、ご安心ください。
2021.09.16 12:25作左(さくざ)が叱(しか)る 宝永6年(1709年)に書かれた『武野燭談』(ぶやしょくだん)という本がある(全30巻)。徳川家康公から5代将軍綱吉公までの歴代将軍、御三家、老中、旗本、諸大名及びその家臣のエピソードを集めた本だ。 恥ずかしながら、崩し字は読めないのだが、幸いなことに国立国会図書館デジタルコレクションには活字になった『武野燭談』があるので、ぼちぼち読んでいたら、法制執務に関する面白いエピソードがあったので(『武野燭談』第十)、ご紹介しようと思う。 主人公は、戦国武将の本多重次(ほんだ しげつぐ)だ。徳川四天王の本多忠勝は、超有名だが、本多重次は、マイナーすぎて名前をご存知の方はほとんどいないと思う。斯(か)く言う私も知らなかった。笑 通称は作左衛門(さくざえもん)で...
2021.09.13 15:00自然人 民法を学び始めた頃に戸惑った言葉の一つに、「自然人(しぜんじん)」がある。※ 余談だが、我々日本人は、無意識に①と②を使い分けている。 ①「苦労」人、「弁護」人のように、「人」と結びついた「苦労」・「弁護」などの言葉が「〜する」と活用できる場合には、「人」を呉音で「にん」と読む。 ②「社会」人、「外国」人のように、「人」と結びついた「社会」・「外国」などの言葉が「〜する」と活用できない場合には、「人」を漢音で「じん」と読む。『精選版 日本国語大辞典』(小学館)によれば、「自然人」とは、「① 未開人、または、社会の因習などに毒されていない、自然のままの人間。 ② 法人に対し、生きている人間をいう。近代法では出生から死亡に至るまで権利能力(人格)を...
2021.09.12 20:00けだし(蓋し)1 面食らった言葉 法律学を学び始めて面食らった言葉の一つに「けだし(蓋し)」がある。当時の法律学の教科書、論文、判決文には、「けだし(蓋し)」が多用されていた。 この言葉は、古来より、日本でも支那(しな。chinaの地理的呼称。)でも推測・推定を表す言葉として用いられてきたのに、法律学では「なぜならば」という意味で用いられていたから、戸惑ったのだ。 「法律学において、けだし(蓋し)とは、なぜならばという意味である」と教えられたわけでもなければ、書物に書いてあるわけでもないのだが、前後の文脈から「なぜならば」と同義だと解さざるを得なかった。 そこで、国語辞典を引いてみるのだが、「けだし(蓋し)」に「なぜならば」という意味はない。各種法律用語辞典も引いて...
2021.09.08 22:46相殺 「相殺」(そうさい)という法律用語を用いた国の法令は、民法をはじめとして145本ある。今では日常生活でもよく用いられているとはいえ、「殺」という字は、物騒な印象を与える。 「相殺」(そうさい)とは、平たく言えば、相互に債務を対当額で差し引きして消滅させることだ。 例えば、AがBから100万円借金していて、他方で、BがAから物を買って50万円の代金を支払わなければならない場合に、借金100万円から代金50万円を帳消しにすることが「相殺」(そうさい)だ。その結果、Aは、Bに借金50万円を返済すれば足りるわけだ。cf.民法(明治二十九年法律第八十九号)(相殺の要件等) 第五百五条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期...
2021.09.06 15:00「齢」と「令」、「歳」と「才」 『サザエさん』の磯野波平さんは、54歳だそうだ。http://www.sazaesan.jp/charactors.html まさか自分が波平さんと同い年になろうとは予想もしなかったので、54歳になった時には、実に感慨深かった。 はあ〜。気持ちは学生の頃のままなのに、今ではすっかり波平さんよりも年上になってしまった。。。 さて、改めて言うまでもないが、「ねんれい」を漢字で表記する場合には、「年齢」が正しく、「年令」は誤りだ。 なぜならば、「齢」(音:れい、訓:よわい・とし)には、よわい、年齢という意味があるが、「令」(呉音:りょう、漢音:れい。訓:しむ、いいつけ、おさ、よい)は、①いいつける、命じる、いいつけ、②のり、きまり、おきて、③おさ、長官、④...
2021.09.05 06:10「ひとびと」と「ひとりひとり」から見える日本語の柔軟性・多様性1 ひとびと 多くの人を意味する「ひとびと」を漢字で表記する場合に、どのように書くべきかと悩まれたことがないだろうか。 正解は、「人人」だ。 通常、「人々」と書かれることが多いが、「々」は、漢字ではないからだ。 「々」は、「ノマ」・「重字(かさねじ)」・「畳字(じょうじ)」と呼ばれる符号であって、片仮名の「ヽ」、平仮名の「ゝ」とともに「踊り字」の一種だ。 一発変換するにはどうしたらいいかと悩まれて、検索したら、「々」が漢字ではないことを知ったという方も多いと思う。 「々」は、「同」の異字体である「仝(どう)」を変形させた符号だから、「どう」を変換すれば、「々」が出てくる。 余談だが、「踊り字」には、漢数字の「二」を崩した「二の字点」と呼ばれる符号「〻...