分けられないものは、分からない <追記あり>

 「わかる」は、「わける」に由来する。AとBにわけるから、AとBの異同がわかるわけだ。


 漢字「」も、「刀で二つに切り分ける」象形からできた会意文字だ。


 孔子も、同じようなことを言っている。知っていることと知らないことを分けることが真に知ることだそうだ。

【原文】

子曰、由誨女知之乎。知之爲知之。不知爲不知。是知也。 (『論語』為政第二 17)

【訓読文】

子(し)曰(い)はく、由(ゆう)、女(なんじ)に之(これ)を知ることを誨(おし)へんか。之(これ)を知るを之(これ)を知るとなし、知らざるを知らずとせよ。是(こ)れ知るなり。

【現代語訳】

由、おまえに知るということを教えよう。知ってることを知ってるとし、知らぬことを知らぬとせよ。これが真に知るということだ。(宇野哲人著『論語新釈』講談社学術文庫50頁)

 ※由は、弟子の子路(しろ)のこと。


 では、英語ではどうなのだろうか。

 分かる、理解するという英語は、understandだ。なぜ下に立つことが分かることなんだろうかと素朴な疑問が浮かぶけれども、understandの語源は、古英語understandanで、間にという意味のunderと立つという意味のstandanから成り立っており、understandanは、間に立つという意味だそうだ。

 つまり、AとBに分けてその間に立つから、AとBの異同が分かるわけだ。


 面白いことに「分かる」ためには、洋の東西を問わず、分けることから始めなければならない。分けられないものは、分からないのだ。


 それ故、人間同士が分かり合うためには、まず、男と女に分けることから始めねばならぬ。

 この性別のことを英語でsexという。sexの語源は、ラテン語sexusセクサスで、sexusは、切る・分けるが原義だ。男と女に分けるから、性別という意味が生まれたわけだ。


 ちなみに、なぜか日本では、sexは、専ら性交という意味で用いられているが、英語の原義は、性別だ。

 今でも、英米では、sexは、基本的に性別の意味で用いられている。例えば、入国審査の書類のsex欄だ。通常、男性なら「M(male)」、女性なら「F(female)」と記入するか、又はチェックを入れるのだが、日本人の中には回数を書く人がいるとかいないとか。笑

 下記の記事で初めて知ったのだが、sexを性交(coitusコイタス)の意味で初めて用いたのは、英国の小説家D.H. Lawrence ローレンスだそうだ。

 余談だが、ローレンスと言えば、我が国では、小説『チャタレイ夫人の恋人』の翻訳本が刑法第175条のわいせつ物頒布罪に当たるとして刑事裁判になった「チャタレー事件」で有名だ。法学部の学生ならば、最高裁判決の猥褻の定義とともに、一度は目にしたことがあろう。

 私としては、ローレンスの評論『現代人は愛しうるか 黙示録論』(中公文庫)が面白かった。日本人には馴染みがないアポカリプス(黙示録)を手がかりにして、現代社会を縦横無尽に論じている。30年ぶりに本を引っ張り出してみたら、赤線を引きながら熱心に読んだ跡が懐かしい。


 さて、日本では、受刑者は、性別に従って男性刑務所と女性刑務所にそれぞれ収容される(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第17条第1項)。


cf.1刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号)

(被留置者の分離)

第十七条 被留置者は、次に掲げる別に従い、それぞれ互いに分離するものとする

 一 性別

 二 受刑者としての地位を有する者か否かの別

2 前項の規定にかかわらず、留置施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上必要がある場合において、被留置者の処遇上支障を生ずるおそれがないと認めるときは、同項第二号に掲げる別による分離をしないことができる。


 Transgenderトランスジェンダーについては、性同一性障害者(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第1条)で生殖線がない等の要件に該当する者の請求により、家庭裁判所による性別の取扱いの変更の審判を受けた者(同法第3条)は、民法や戸籍法その他の法令の適用については、「他の性別」に変わったものとみなされて(同法第4条第1項)、「他の性別」に従った刑務所に収容されることになる。


cf.2性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号)

(定義)

第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう

(性別の取扱いの変更の審判)

第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により性別の取扱いの変更の審判をすることができる

 一 二十歳以上であること。

 二 現に婚姻をしていないこと。

 三 現に未成年の子がいないこと。

 四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること

 五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。

(性別の取扱いの変更の審判を受けた者に関する法令上の取扱い)

第四条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす

2 前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。


 これに対して、英国では、受刑者からTransgenderトランスジェンダーの申立てがあると、専門家で構成されるトランスジェンダー委員会が審査して、男性刑務所と女性刑務所に振り分けることになっている。

 ところが、日本のように性同一性障害によらずに、性自認によってトランスジェンダーかどうかを判断する英国では、本物のトランスジェンダーと自称トランスジェンダーを判別することが医学的に不可能なので、結局、本人の自己申告通りになる。本人の自己申告を否定すれば、差別だとレッテルを貼られ、糾弾されるから、トランスジェンダーを詐称することは容易だ。

 下記の記事にあるように、実際、小児性愛者で女性に対する性犯罪の前科がある52歳の男 David Thompsonは、Karen Whiteという女性名の通名を用いて巧みに女装し、自分はトランスジェンダーだと嘘の申立てをした結果、女性刑務所に収監され、女性受刑者2名を強姦した。嘘のような本当の話だ。

 性自認によって性別を決めること、換言すれば、自分の意思によって性別を決めることは、Karen White事件の如き、被害者を生み、無用の社会的混乱をもたらすなど、弊害が大きい。

 もし日本が英国と同じ轍を踏んで性自認によって性別を決めるようになったら、 出所したDavid Thompsonをはじめとする女性を詐称する強姦魔が世界中から来日し、正々堂々と女湯や女子トイレに侵入して、性犯罪を犯すことだろう。

 この強姦魔が女湯や女子トイレに侵入しようとした際に、これに対して注意でもしようものなら、「トランスジェンダーを差別するのか!」と大騒ぎした挙句に、損害賠償を請求する訴えを提起することだろう。性自認によって性別を決める以上、本人が女性だと主張する限り、裁判所はこれを前提に裁判をせざるを得ず、損害賠償請求が認容されることだろう。こうなったら日本女性は、女湯や女子トイレを安心して利用できなくなる。

 性自認によって性別を決めるLGBT法案の成立を目指している国会議員たちは、日本女性が被害に遭い、日本の社会秩序が乱れることを熱望しているとしか考えられない。


 以前、受講者から「正義とは何ですか?」と訊かれて、「正義とは、正義規範に適合することです。正義規範とは、「各人に彼のものを」、つまり「ひとしいものにひとしいものを」というルールです。例えば、男女は、等しく人間であるが故に、男も女も人間として等しく取り扱われるべきであるとともに、男なるが故に男らしく、女なるが故に女らしく扱われるべきであるということです。う〜ん、具体的に言いますと、男も女も労働者である点で同じですから、男女の定年制は同じであるべきです。同時に、女しか子供を産めませんから、女には産休が認められるべきですし、また、男女では身体の形態や能力に違いがありますから、男女別にトイレを設置したりスポーツ競技を行うことが認められるべきです。これが正義ということです。」と回答したことを述べた。

 くどいようだが、性自認によっては男と女を分けることができないから、男か女か分からないのだ。

 そのため、男湯・女湯、男子トイレ・女子トイレのように、男なるが故に男らしく、女なるが故に女らしく扱うことができず、正義に反する結果を招来するわけだ。


 これは、戦争なのだ。以前にも引用した『民間防衛』(原書房)を再度掲載しておく。

 「戦争のもう一つの様相は、それが目に見えないものであり、偽装されているものであるだけに、いっそう危険である。また、それは国外から来るようには見えない。カムフラージュされて、さまざまの姿で、こっそりと国の中に忍び込んでくるのである。そして、われわれのあらゆる制度、あらゆる生活様式をひっくり返そうとする

 このやり方は、最初はだれにも不安を起こさせないように、注意深く前進してくる。その勝利は血なまぐさくはない。そして、多くの場合、暴力を用いないで目的を達する。これに対しても、また、しっかりと身を守ることが必要である。

 われわれは絶えず警戒を怠ってはならないこの方法による戦争に勝つ道は、武器や軍隊の力によってではなく、われわれの道徳的な力、抵抗の意志によるほかない。」(同書227頁。太字:久保)


<追記>

 条例Webアーカイブデータベースで、「性自認」を検索すると、全国で35本の条例が制定されていることが分かった。我が国の将来は、危機的状況にある。

 例えば、平成元年10月25日、大阪府議会が全会派が一致して、大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例案を原案通りに可決している。


 大阪府議会議員が個人的に似非(えせ)科学や左翼思想に毒されていることは、無知蒙昧故の誤りとして人間的に致し方ないとしても、議員としてかかる条例を制定したことは、万死に値する。恥を知るならば、腹を切れ!武家の出でないならば、せめて当該条例を廃止してから、辞任せよ!


 くどいようだが、性同一性障害は、医学的に判別可能だが、性自認は、医学的に判別できないのだ。

 そもそも「Gender:ジェンダー」や「Gender Identity:ジェンダー アイデンティティ、性自認」という似非科学用語を発明したのは、マッド・サイエンティストであるジョン・マネーだ。

 ジョン・マネーの狂気の実験については、ジョン・ピラント著『ブレンダと呼ばれた少年』(扶桑社)をお読みいただきたい。大阪府議会議員は、こんな基本文献すら読まずに条例案に賛成したのだろう。読んでいれば、賛成するはずがないからだ。

 ジョン・マネーの嘘学説を前提とする似非科学用語を条例に用いるだけでなく、その理解の増進を図るなど、狂気の沙汰であって、言語道断だ!


 この点、脳の性差に関する世界的権威である順天堂大学名誉教授の新井康允(あらい やすまさ)先生は、次のように穏やかに述べておられる。

「生まれたての赤ちゃんの脳には性差がないとする見方、後天的な環境、しつけや教育などでジェンダー・アイデンティティ、社会的性差が決定する、という考え方が一時アメリカなどで唱えられていました。その代表的な論者がアメリカの性科学者であるジョン・マネーです 。

 しかし 、同じアメリカの学者ミルトン・ダイアモンドなどが言うように、それは自然科学の領域では既に覆されています 。マネーは 、3 歳までであれば 、いずれの性にもできるという独自の理論を 打ち出しました 。そして 、割礼手術に失敗した一卵性双生児の一人の男の子の赤ちゃんに性転換手術を施し、 女として育てたところ、うまくいったとしていましたが、実際にはうまくいっておらず、思春期に近くなって性の再確認が必要になり、男に戻っていたというケースが知られています 。

 日本で言われている、いわゆるジェンダーフリーの理論は 、そのマネーの学説などをベースにしたものでしょう。このケースでは、もともと正常の男の脳を持って生まれてきたことに注目すべきです。」

https://www.lec-jp.com/h-bunka/item/v252/pdf/200506_14.pdf

 脳の性差については、新井康允著『脳の性差―男と女の心を探る―』(共立出版)が詳しい。

 

cf.大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例(令和元年十月三十日 大阪府条例第十八号)


 






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