テレビCMでお馴染みの「YES! 高須クリニック」の「YES!」は、「患者様のご希望通り可能な限りお答えする」という意味だそうだ。
残念ながら、英語のyesにこのような意味はない。
英語でYes, my Lordイエス、マイ ロードと言えば、「はい、(わが)ご主人様」「畏(かしこ)まりました、(わが)ご主人様」「はい、(わが)ご領主様」「御意(ぎょい)、閣下」という意味になる。
Lordは、the House of Lord「(英国)上院」「(英国)貴族院」という風に、今日では「貴族」の意味で使われているが、もともとの意味は、一家の「主人」を意味する。
Lordの語源は、古英語hlafweardフラーフウエアルド「パンを守る者」で、パンを持っていて、家族や従者に分ち与える人ということから、一家の「主人」という意味になったそうだ。
ちなみに、「パン」を意味するhlafフラーフのh音が脱落して、loafロウフ「パン」になった。loafは、小麦粉を水で溶いて鉄板で焼いたもので、昔は、これが主食みたいなものだったのだろう。breadブレッドは、「イースト菌で発酵させたパン」を意味する。
古英語weardウエアルド「守る者」は、wardウオード「保護者、監督者、守衛、監視人」の語源だ。
同様に、女主人に対しては、Yes, my Ladyイエス、マイ レディと言う。
今日ではLadyレディというと、「貴婦人、淑女」を意味するが、本来の意味は「女主人」だ。
Ladyの語源は、古英語hlafdieフラーフディエだ。前述したようにhlafフラーフは「パン」で、dieディエは、「こねる」を意味するので、hlafdieフラーフディエは、「パンを作る粉をこねる人」ということから、食事・料理を取り仕切る「女主人」という意味になったわけだ。
英国人は、どんなけパン好きなんやと思うけど(笑)、それはさておき、家政を取り仕切る「北の政所(まんどころ)」、奥向きを取り仕切る「奥様」と類似していて面白い。
英国でも、家の実権を握っていたのは賢い妻で、表向きは威張りたい夫の顔を立てて、パンを分け与える役をさせていたのだろう。洋の東西を問わず、「かかあ天下」が家庭円満の秘訣のようだ。
子供の頃、家族ぐるみで付き合った米海軍の軍属(エンジニア)の家に遊びに行ったら、一家の主人たるお父さんが大きな肉の塊を切り分けてくれたが、英国の風習のなごりだろう。
さて、国王又は女王に対しては、Yes, your Majestyイエス、ユア マジェスティ「はい、陛下」「畏まりました、陛下」となる。
Majestyマジェスティの語源は、ラテン語majestasマジェスタス「威厳、偉大」であって、Majestyは、「威厳、尊厳」を意味する。
なぜYes, my Lord/Ladyのように、Yes, my King/Queenと言わないのだろうか。
おそらく直接仕えている主人・女主人にmy Lord/Ladyと呼びかけるのは失礼ではないが、国王・女王は、あまりにも高貴で直接呼びかけるのが畏(おそ)れ多いため、your Majesty「(あなたの)威厳」という婉曲(えんきょく)表現が敬称として用いられているのだろう。
そうだとすると、「陛下」と類似していて面白い。
『精選版 日本国語大辞典』(小学館)によれば、「「陛」は宮殿の階段。階段の下の侍臣を通じて奏上する意から」、陛下が天子の尊称になったとある。
つまり、皇帝に直接申し上げることは憚(はばか)れるので、宮殿の階段の下にいる侍臣を通じて申し上げるため、「陛下(の侍臣を通じて)申し上げます」と言っているうちに、皇帝の尊称が「陛下」という婉曲表現になり、支那(シナ。chinaの地理的呼称)から日本に伝わったわけだ。
このように your Majestyも陛下も、まさに「敬して遠ざける」ことから生まれた婉曲表現の敬称ということになる。
『論語』雍也篇第六の「敬鬼神而遠之」(鬼神を敬してこれに遠ざかる)から「敬して遠ざける」という慣用表現が生まれた。「尊敬の気持ちから、なれなれしくしない」(『デジタル大辞泉』小学館)という意味だ。
もっとも、面従腹背(めんじゅうふくはい。うわべだけ上の者に従うふりをしているが、内心では従わないこと。『デジタル大辞泉』小学館)の臣下がいるのは世の常であって、「敬して遠ざける」は、「尊敬するように見せかけて、内心は疎 (うと) んじる。敬遠する。」(『デジタル大辞泉』小学館)という意味で使われることもある。
英国首相ウィンストン・チャーチルは、「共産主義者の間では、共産主義者のユートピアのために祖国を犠牲にすることが、信仰の事柄になっている。あたり前の生活で全く立派な態度で振舞う人が、精神の病気に感染すると、一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく、祖国なりその秘密なりを売る。」(1946年5月24日下院演説)と述べている。
※ ここにいう「精神の病気」とは、共産主義を指す。
宮内庁にも面従腹背の共産主義者たる職員がいる。宮中の秘密やあることないことをマスコミにペラペラしゃべって、その結果、皇室に対する国民の尊崇の念が損なわれることがしばしばある。
天皇制(共産党用語。皇室の意)打倒を命じるコミンテルン32年テーゼに基づく策略であるいわゆる「開かれた皇室」論は、まさにこれを促進しようとする企てだ。
「尊敬の気持ちから、なれなれしくしない」のが皇室と国民との正しい伝統的な関係なのであって、皇室は、決して開かれてはならないのだ。「陛下」と呼んできた先人の智慧を大切にすべきだ。
なお、一般的な敬称については、以前述べた。
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