馬鹿につける薬はない

 以前、行為者の意図とは異なる結果がもたらされるunitended consequences「意図せざる結果」について述べた。

 飯田高『法と社会科学をつなぐ』(有斐閣)によれば、「意図せざる結果」概念を確立したのは、アメリカの社会学者Robert King Mertonロバート・キング・マートンだそうだが、この現象に早くから気付いていた者は、他にもいる(同書13頁)。

 個々の蜂は、悪徳とされる私利私欲を追求しているにも関わらず、それが結果としては、巣全体の利益につながっている逆説を風刺したBernard de Msndevillバーナード・デ・マンデヴィル『蜂の寓話』(上田辰之助著作集 4、みすず書房)や、マンデヴィルの影響を受けて、各人の私益の追求がinvisible hand「見えざる手」により公益の増大をもたらすと主張するAdam Smithアダム・スミス『諸国民の富』(岩波文庫)などがそうだ。


 先日、東京都の一人目0歳児から保育料無償化について述べたが、ふと思い出したので、書き留めておこうと思う。

 石原慎太郎氏は、「貸し渋り」に苦しむ中小企業を支援しようと新銀行設立を選挙公約に掲げて都知事選に立候補して、当選した。

 そこで、石原都知事は、選挙公約を実現すべく、東京都が1000億円を出資して2005年4月に「新銀行東京」が開業した。


 私は、このニュースを見ながら「馬鹿か!こんなもん絶対に失敗するわ!」と吐き捨てるように言ったことを今でも覚えている。

 金融のプロである銀行が貸し渋りしている中小企業に対して、ど素人の「新銀行東京」が融資をしたら、債権が焦げ付くに決まっているからだ。昔から「餅は餅屋」と言うように、既存の銀行に任せておけばよいのだ。自由競争に委ねられるべき市民社会に役所が余計な介入をすると、碌(ろく)なことはない。


 案の定、「新銀行東京」は、ずさんな融資などで開業からわずか2年半で累積赤字が936億円まで膨れ上がり、経営難に陥った。市場の論理に従って「新銀行東京」を倒産させればよいものを、愚かにも東京都は、「新銀行東京」に400億円の追加出資をした。

 結局、都民の血税1400億円がパーになった。石原都知事がお詫びに全私財を赤字の穴埋めに当てたという話は聞かないし、切腹したという話も聞かない。無責任極まりない恥知らずの穀潰しだ。

 2018年5月1日、八千代銀行が、「新銀行東京」と東京都民銀行を吸収合併し、地方銀行として都内最大の店舗数となる「きらぼし銀行」として再出発した。


 「貸し渋り」に苦しむ中小企業を支援するつもりが「新銀行東京」が赤字になったのだから、無知無能の石原都知事にとっては「意図せざる結果」だったのかも知れないが、良識的に見れば、当然予想される結果だと言える。

 (都庁には優秀な職員さんもいらっしゃるだろうに、知事に諫言(かんげん)する職員さんはいらっしゃらなかったのだろうか。いたとしても独裁者は、聞く耳を持たず、左遷する気がする…。首長制を議院内閣制に改めた方がよいのかも知れない。)


 このように、「意図せざる結果」かどうかは、誰を基準にするかによって異なるわけだ。一般通常人を基準に通常予想され得る結果については、「意図せざる結果」で「想定外だった」と責任逃れを許してはならない。


 愚かさでは石原都知事と双璧をなす小池百合子都知事は、外国人起業家の資金調達支援事業を実施している。1500万円を無担保で外国人に融資しているのだ。


 対象者を限定し、一般の創業融資1.0%以下に対して、こちらは2.7%以下(固定金利)と金利が高いので、多少は反省をしているようだが、融資を受けた外国人が事業に失敗すれば、借金が返済されない点では、「新銀行東京」と同じだ。

 馬鹿馬鹿しいので、列挙しないが、東京都には、他にも似たような制度がある。


 他人に貸したり、なんでもかんでも無償化するほどお金が余っているならば、首都直下型地震や富士山の噴火に備えて、被災者対策費に充てるためにドル建てで預金した方がマシだと思う。

 いざとなれば、国や地方に泣きつけばよいとでも思っているとしたら、大間違いだ。首都が壊滅したら、円も株価も大暴落し、日本経済は壊滅的被害を受けるから、都民を助ける余裕はないからだ。


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