菊間千乃弁護士は、「憲法24条は、両性の合意のみで婚姻が成立すると規定しているのに、民法750条はどちらかが改姓しないと婚姻が成立しないとしています。両性の合意以外に婚姻の要件を追加している点はそもそも憲法違反であり、問題だと思っています。」と述べている。
元フジテレビのアナウンサーで、AERAは朝日新聞の雑誌だから、まあ記事を読む前からその主張は予想できたが、民法第750条が憲法第24条違反だという結論には眉を顰(ひそ)めた。
確かに、形式的にみれば、菊間弁護士の言う通りだ。憲法第24条は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めているからだ。
しかし、本条の内容は、憲法第13条の個人の尊厳、第14条の法の下の平等から当然に導き出せるものなのに、あえて本条が設けられたのは、かつての明治憲法時代の「家」制度を解体するためだ。
そこで、日本国憲法施行とともに、日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和二十二年法律第七十四号)で、とりあえず民法の「家」についての規定の適用を停止し、その後に民法が改正され(昭和二十二年法律第二百二十二号)、「家」が全面的に廃止された。これによって憲法第24条は、その目的を達し、役割をほぼ終えたともいえる。
このような本条の趣旨を考慮に入れずに、婚姻が有効に成立するための要件は、婚姻する男と女の合意だけであり、それ以外の要件を認めることは一切禁止されると形式的に解釈することは、許されない。
なぜならば、現行民法には、婚姻が有効に成立するための要件として、両性の合意以外にも婚姻適齢(民法第731条)、重婚禁止(民法第732条)、近親者間の婚姻の禁止(民法第734条)、直系姻族間の婚姻の禁止(民法第735条)、婚姻の届出(民法第739条)があるが、菊間弁護士のように憲法第24条を形式的に当てはめれば、これらの民法の規定も違憲ということになり、畜生にも劣る、人倫に反する夫婦・家族関係を認めることになるからだ。
さて、民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定めている。
菊間弁護士は、本条が夫婦のどちらかが改姓しないと婚姻が成立しないとしており、両性の合意のみで婚姻が成立すると定める憲法第24条に違反すると主張している。
この解釈は、日弁連と同旨だ。
しかし、憲法第24条は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と定めるだけで、ここにいう「婚姻」とは何かについては、立法に委ねている。
憲法第24条を受けて制定された民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」という夫婦同氏制をもって「婚姻」としているのだ。夫婦・家族をワンチームにするためだ。
夫婦は、まさに両性の合意に基づいて夫又は妻の氏を選択することができるのであって、これは、憲法第24条の基底にある個人の尊厳と両性の本質的平等に適うので、民法第750条は、憲法第24条に違反するものではない。
この点、非武装中立論で有名な極左の憲法学者である東大名誉教授小林直樹氏の門下生である法政大学名誉教授の野中俊彦氏でさえも、「夫婦同姓の原則も、たしかにそれが多くの場合、事実として夫の姓をとることに傾くことは否定できないが、夫婦協議が認められている以上、違憲の制度とまではいえないであろう。しかし女性の社会進出が目覚ましい今日、夫婦別姓制が望ましいとの意見も次第に有力になっており、それには十分理由があると思われるから、立法政策的には大いに考慮されてよい問題である。」と述べている(野中俊彦ほか著『憲法Ⅰ』(有斐閣)280頁)。
間違った憲法解釈によって世論をミスリードするのは、やめてもらいたいものだ。
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