守秘義務の謎

1 守秘義務における国家公務員と地方公務員の違い

 国家公務員と地方公務員の一般職については、守秘義務に関する規律に違いはないが、特別職については、大きく異なる。


2 国家公務員の守秘義務

 よく知られているように、国家公務員一般職については、国家公務員法上、守秘義務が課されており(同法第100条)、違反すれば、「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」に処せられる(同法第109条第12号)。


 しかし、国家公務員法の規定は、国家公務員特別職には、「この法律の改正法律により、別段の定がなされない限り」、適用されない(同法第2条第5項)。

 つまり、国家公務員特別職には、原則として、守秘義務が課されていないわけだ。


 ただし、国家公務員特別職が、国家公務員一般職の守秘義務違反の共犯である場合には、刑法の規定は、他の法令の罪についても、適用され(刑法第8条)、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする」とされているので(刑法第65条第1項)、刑法第60条(共同正犯)、刑法第61条(教唆)又は刑法第62条(幇助)が適用され、それぞれ処罰されることになると解する(私見)。


 例外的に、守秘義務が課されている国家公務員特別職もある。主なものを列挙する。


⑴ 内閣総理大臣、国務大臣、副大臣、大臣政務官、内閣官房副長官及び内閣法制局長官

 官吏服務紀律(明治二十年勅令第三十九号)第4条第1項に、「官吏ハ己ノ職務ニ関スルト又ハ他ノ官吏ヨリ聞知シタルトヲ問ハス官ノ機密ヲ漏洩スルコトヲ禁ス其職ヲ退ク後ニ於テモ亦同様トス」と定められている。


 しかし、罰則規定がない。理由は不明。罪刑法定主義(憲法第31条、第73条第6号ただし書)が理由か。


※  官吏服務紀律(明治二十年七月三十日勅令第三十九号)は、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」(昭和二十二年四月十八日法律第七十二号)第1条により、昭和23年1月1日に失効したとすべきところ、同日施行された「国家公務員法の規定が適用せられるまでの官吏の任免等に関する法律」(昭和二十二年十月二十一日法律第百二十一号)第1条第1項に、「官吏その他政府職員の任免、叙級、休職、復職、懲戒その他身分上の事項、俸給、手当その他給与に関する事項及び服務に関する事項についてはその官職について国家公務員法の規定が適用せられるまでの間従前の例による。 但し、法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て別段の定をなしたときは、その定による。」と定められている。

 特別職の国家公務員については、国家公務員法の規定が現在なお適用されていないため、特別職の職員のうち法律第百二十一号施行の際に存していた職にある職員の服務に関しては、他の法律等に別段の定めがない限り、なお官吏服務紀律の規定の例によることとなる。

 特別職の職員のうち、法律第百二十一号施行後に新たに特別職とされた職にある職員については、必要に応じ、関係法令において個別に服務に関する所要の規定が設けられている。


⑵ 内閣総理大臣、国務大臣、副大臣(内閣官房副長官を含む。)及び大臣政務官

 「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」(平成十三年一月六日閣議決定)1(8)に、「職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。(中略)これらについては、国務大臣等の職を退任した後も同様とする。」と定められている。


 しかし、罰則規定がない。理由は不明。罪刑法定主義(憲法第31条)が理由か。


⑶ 内閣危機管理監、内閣官房副長官補、内閣広報官、内閣情報官、内閣サイバー官及び内閣総理大臣補佐官

 内閣法(昭和二十二年法律第五号)第15条第5項、第17条第4項、第18条第3項、第19条第3項、第19条の2第3項及び第21条第5項に、それぞれ国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第100条第1項を準用することとされ、同項において「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」と定められている。


 しかし、罰則規定がない。理由は不明。


⑷ 宮内庁長官及び侍従長

 官吏服務紀律第4条第1項に、「官吏ハ己ノ職務ニ関スルト又ハ他ノ官吏ヨリ聞知シタルトヲ問ハス官ノ機密ヲ漏洩スルコトヲ禁ス其職ヲ退ク後ニ於テモ亦同様トス」と定められている。


 しかし、罰則規定がない。理由は不明。罪刑法定主義(憲法第31条、第73条第6号ただし書)が理由か。


⑸ 東宮大夫、式部官長及び侍従次長

 「宮内庁における特別職の職員の服務、勤務時間等に関する内規」(昭和六十一年宮内庁長官決裁)第5の1に、「特別職職員は、職務上又は職務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また同様とする。」と定められている。


 しかし、罰則規定がない。理由は不明。罪刑法定主義(憲法第31条)が理由か。


⑹ 特命全権大使及び特命全権公使

 外務公務員法(昭和二十七年法律第四十一号)第4条第1項において国家公務員法第100条第1項を準用することとされ、同項において「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」と定められている。


 守秘義務違反については、外務公務員法第27条において「第四条において準用する国家公務員法第百条第一項又は第二項の規定に違反して秘密を漏らした者及びこれらの項の規定に違反する行為を企て、命じ、故意にこれを容認し、唆し、又はその幇助をした者は、一年以下の拘禁刑又は三万円以下の罰金に処する。」と規定されている。


⑺ 行政執行法人の役員

 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第53条第1項に、「行政執行法人の役員(以下この条から第五十六条まで及び第六十九条において単に「役員」という。)は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。 その職を退いた後も、同様とする。」と定められている。


 守秘義務違反については、独立行政法人通則法第69条の2で、「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」と定められている。


3 地方公務員の守秘義務

 地方公務員一般職については、国家公務員一般職と同様に、守秘義務が課され(地方公務員法第34条第1項)、違反すれば、「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」に処せられる(同法第60条第2号)。


 しかし、地方公務員法の規定は、「法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない」と定められている(同法第4条第2項)。

 つまり、知事や市町村長、地方議会議員などの地方公務員特別職には、原則として、守秘義務が課されていないわけだ。


 ただし、地方公務員特別職が、地方公務員一般職の守秘義務違反の共犯である場合には、刑法の規定は、他の法令の罪についても、適用され(刑法第8条)、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする」とされているので(刑法第65条第1項)、刑法第60条(共同正犯)、刑法第61条(教唆)又は刑法第62条(幇助)が適用され、それぞれ処罰されることになると解する(私見)。


 例外的に、守秘義務が課されている地方公務員特別職もある


⑴  人事委員会及び公平委員会の委員

 人事委員会及び公平委員会の委員については、地方公務員法第34条が準用されるので(同法第9条の2第12項)、守秘義務が課され、違反すれば、「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」に処せられる(同法第60条第2号)。


⑵  都道府県公安委員会の委員

 都道府県公安委員会の委員については、地方公務員法第34条が準用されるので(警察法第42条第1項本文)、守秘義務が課され、違反すれば、「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」に処せられる(地方公務員法第60条第2号)。


⑶  非常勤特別職の地方公務員

 「「特別職の地方公務員が秘密を知り得る職務に就く場合」には、その公務の性質を踏まえ、地方公務員法第三条第三項第三号に掲げる職を占める職員(以下「特別職非常勤職員」という。)の服務に係る要綱等において、守秘義務について定めておく必要があるものと考えている。」というのが政府答弁だ。

 条例で非常勤特別職の地方公務員について、守秘義務を課している自治体がある。


4 今後の課題

⑴ 前述したように、一定の国家公務員特別職について、例外的に守秘義務が課されているのに、罰則規定が設けられていないのはなぜなのか?


⑵  国家公務員特別職の服務については、将来的に国家公務員法が適用されることが予定されているのに(国家公務員法の規定が適用せられるまでの官吏の任免等に関する法律第1条第1項)、今日に至るまで適用されていないのはなぜなのか?


⑶ 内閣総理大臣、国務大臣等には、守秘義務が課されているのに、知事や市町村長には、守秘義務が課されていないのはなぜなのか?

 ⑵に関連するが、内閣総理大臣等の服務について、今日に至るまで国家公務員特別職に国家公務員法が適用されていないことに平仄(ひょうそく)を合わせているのか?


⑷  ⑶と関連するが、知事や市町村長に、条例で守秘義務を課すことが許されるのか?

 国の法令が、知事や市町村長の守秘義務を定めていないのは、各自治体の自主性・自立性に委ねる趣旨だと考えれば、条例で守秘義務を課すことが許されることになろう。


 今後、時間があれば、調べてみたいと思うが、誰か調べてご教授くださ〜い。

 

 

 



源法律研修所

自治体職員研修の専門機関「源法律研修所」の公式ホームページ