障害者専用駐車スペースは、平成18年に制定された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)により、設置が義務付けられている。
ヨーロッパでは、女性専用駐車スペースの設置を義務付ける条例が制定されつつあるようだ。
フランスの大衆紙Le Parisienル・パリジャンの記事によれば、スペイン北西部のレオン市では、ホセ・アントニオ・ディエス市長のアイデアで、7月中旬から一部地域で女性専用駐車スペースが導入された。
女性専用駐車スペースは、「より広く、明るく、歩道に近い」ため、女性ドライバーにとってより安全で、車までの移動距離が短くなり、乗り降りも楽になるからだそうだ。
すでに他のヨーロッパの都市(ドイツ、オーストリア、スイス)では、女性専用駐車スペースが導入されている。
スペインでは、この措置を巡って男女双方から論争を巻き起こした。
女性に特権が与えられる理由を理解できない男性がいる一方で、女性自身も、「性差別的だ」、「女性は男性よりも運転が下手だから、女性専用駐車スペースが必要だと言っているようなものだ」と不満を表明する人もいる。
女性専用駐車スペースを表すドレスを着た女性を描いたピンクのピクトグラムは、差別的だとみなされ、導入からわずか7日でペニスの絵がスプレーで描かれ、破壊された。
フランスでも、いくつかの都市に女性専用駐車スペースが設けられている。メス市では、導入当初は多くの否定的な反応を引き起こしたそうだ。
確かに、一見すると、広い駐車場は、見晴らしが良くて安全そうに見えるけれども、夜間はもちろん、昼間であっても車の陰で何が行われているかが見えにくく、女性が犯罪に巻き込まれる危険性がある。暗い駐車場や監視員がいない駐車場は、女性にとってさぞや不安だろう。
フランス・パリの地下駐車場では「駐車場強姦犯」が出没し、ナイフで女性を脅迫した後、犯行に及ぶ手口で、1993年〜1995年、2005年6月〜9月にかけて、合計17人の被害者が記録されている。
フランス最古のLe Figaroル・フィガロ紙によれば、パリ市の議員が、女性専用駐車スペースを実験的に設置することを提案しているそうだ。女性が感じる不安を軽減することを目的としている。
議員は、「性差別や性的暴力を根絶する」ための「奇跡的な解決策ではない」ことを認めているが、駐車場の出口近くに、明るく照らし、ビデオ監視システムを備えた女性専用駐車スペースを設置すれば、誰もが「自由に、恐れることなく移動する」権利を持つことができると主張している。
ドイツでは、障害者専用駐車スペースとは異なり、女性専用駐車スペースは、道路交通法に規定がないが、州の条例で女性専用駐車スペースが定められており、①女性専用駐車スペースであると明示しなければならない、②施設の入り口付近に設置すべきである、③警備員か防犯カメラによって監視されなければならない、④警報装置がそばになければならない、⑤大規模な駐車場は、全スペースの少なくとも10%(州によっては30%以上)を女性のために確保しなければならない、などの規制が行われている(Wikipedia参照)。
女性は、男性よりも性暴力の被害に遭いやすいから、差別ではないと考えられている。
我が国では、すでに女性専用車両が導入され、すっかり定着しているので、女性専用駐車スペースを設置することについても、もはや心理的抵抗は少ないと思う。
警察庁『犯罪統計書 令和5年の犯罪』の「14 罪種別 発生場所別 認知件数」を見ると、駐車場での犯罪が少なからずあることが分かる。
この統計では、被害者が女性だと明記されているわけではないが、駐車場での不同意性交等は31件、わいせつは136件、暴行傷害などの粗暴犯は774件だった。空港と比べれば、かなり多い。
フェミニストの中には、社会全体で女性を守ることについて、異議を唱える者がいるかもしれないが、女性が安心できる公共スペースを確保することは、合理的理由に基づく区別であって、差別ではない。
女性が安心して暮らせる社会は、男性にとっても暮らしやすい社会だから、防犯の意味で、女性専用駐車スペースを設置する目的には合理性がある。
ただ、女性専用駐車スペースよりも、照明を多くし、監視カメラをさらに設置したり、警備員を増やす方が防犯に役立つとすれば、手段には合理性がないということにはなるが。
なお、警察庁交通局運転免許課『運転免許統計 令和5年版』によれば、令和5年の運転免許保有者数の構成比は、男が54.0%で、女が46.0%だった。
女性専用駐車スペースを設置する際の指標の一つになる。
また、少し古い資料だが、自動車安全運転センター平成元年度調査研究報告書『女性運転者の運転の実態と意識に関する調査研究』によれば、運転目的について、男性では「業務・仕事」が45%と最も多く、以下、「通勤・通学」38%、「レジャー」11%と続いている。女性では、「通勤・通学」35%、「買い物」33%、「業務・仕事」15%となっている。
運転場所については、女性の行動範囲が男性よりも狭い傾向がみられる。男性では「自宅周辺」が7%に過ぎないのに対して、女性では約2割となっている。次いで、「居住地の市町村内」が男性の約3分の1に対して、女性は4割弱と女性の運転行動範囲が狭い。
これも女性専用駐車スペースを設置する割合や施設の性質(ex.商業施設)を考える上で、指標の一つとなる。
誰でもイメージしやすい問題なので、政策法務の研修でウォーミングアップとして出題すれば、興味を持って議論してもらえるかもしれない。
所属部署・職種を問わず、誰でもイメージしやすいお題を考えるのが本当に大変で、いつもアンテナを張っている。
皆さんの中で、こんなお題はどうかというアイデアがあれば、ぜひご教授いただきたい。
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