悪魔の契約?

 下記の記事によると、2015年に公設民営の私立大学である自治医科大学(栃木県下野市)に入学し、卒業した医師A氏は、修学金制度(学費は、在学中は貸与され、卒業後9年間、僻地等にある指定された公立病院に勤務した場合、学費返還を免除される。)に基づき、大学から2660万円を貸与されたが、指定勤務先を退職したことで、一括返済を求められていた。

 A氏は、この一括返済を求める法的根拠となっている契約の条項が違憲・違法だと主張して、同大学と愛知県を被告とする債務の不存在確認と国家賠償請求を求める訴えを提起した。


 論点が多岐にわたり興味深いし、訴訟の結果如何によっては、自治医科大学の修学金制度に類似する制度を設けている公設民営の私立大学である産業医科大学(福岡県北九州市)や防衛省の施設等機関である防衛医科大学校(埼玉県所沢市)にも波及し、ひいては医師の偏在問題にも重大な影響を与え、日本の医療制度全体のあり方が根本的に覆る可能性があるので、訴訟の行方に注視する必要がある。


 う〜ん、形式的には、被告側の主張に一理あるけれども、分割返済を認めず、一括返済せよというのは理不尽な気がする。分割返済を認めると、指定勤務先を退職する者が続出してしまい、修学金制度がなし崩しになるから、一括弁済にしているのだろうが。

 ちなみに、deal with the Devil「悪魔との取引」・pact with the Devil「悪魔との契約」は、知識・地位・名誉・富・若さなどの願望を叶える代わりに、己の魂を悪魔に差し出す人間と悪魔との取引・契約だ。

 これは、ドイツ中世のファウスト伝説に由来する。学者であるファウストは、己の魂と引き換えに、世のあらゆる快楽と無限の知識を得る契約を悪魔メフィストフェレスと結ぶ。

 ゲーテの『ファウスト』では、ファウスト博士は、輝く聖母マリアに導かれて天上へと召されて救済されるので(『ファウスト 悲劇第二部(下)』中公文庫、243頁〜261頁)、結局、債務(魂の引渡し)を履行してもらえなかった悪魔メフィストフェレスは、負けということになる。

 果たしてA氏は、救済されるのだろうか。

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