地方自治法第14条第3項には、「普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の拘禁刑、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。」と定められている。
条例違反者に対して刑罰を科すことができる旨の規定が設けられたのは、昭和22年(1947年)の地方自治法改正からだ。
なぜこの規定が設けられたのかについては、当時の国会議事録を検索しても、まったくヒットせず、不明だ。後掲の記事によると、GHQの意向が働いたと言われているらしいが、確証はない。
問題なのは、地方自治法第14条第3項の刑罰の上限が低すぎるのではないかだ。
すなわち、昭和22年の地方自治法第14条第3項では、「二年以下の懲役又は禁錮、十万円以下の罰金・・・」だったが、罰金については、現在100万円に引き上げられたけれども、拘禁刑については二年以下のままだ。
悪質な条例違反のケースが後を絶たず、条例の実効性を確保するためには、刑罰の上限も引き上げて、それぞれの地域事情に合わせて設定できるようにすることが地方分権の観点から望ましいのではないかが問題になる。
これは、解釈論ではなく、立法論・政策論だ。見落としがあるやも知れぬが、この点を論じた論文はないようだ。
唯一この点について書かれたものとしては、下記の記事があった。
この記事で、松永氏は、昭和23年7月当時のはがきの料金は2円で 、現在は63円だとして、はがき料金を基準に、「罰金の上限は少なくとも10万円の30倍、300万円程度に引き上げてもよいのではないか」と述べておられるが、これでも安すぎると思う。
というのは、昭和21年(1946年)の巡査の初任給は420円、小学校教員の初任給は300〜500円、公務員の初任給は540円、国会議員の報酬は1,500円だった。
それ故、昭和22年改正の地方自治法第14条第3項の「十万円以下の罰金」は、上限が非常に高く設定され、かなり厳しい刑罰だったと言える。
しかしながら、現行法上、罰金刑が100万円に引き上げられたとは言っても、悪徳業者にとっては100万円なんて痛くも痒くもない金額であって、実効性に疑問符がつく。
松永氏のご意見に従って300万円程度に引き上げたとしても、同様だろう。
令和4年(2022年)の公務員の初任給は182,200円だから、昭和21年当時の540円の337倍だ。単純計算で、昭和22年の10万円の罰金を337倍した3,370万円が罰金の上限に相応しいことになる。
このように罰金の上限については、物価や給与額にスライドさせるのが理に適っていると思われるが、拘禁刑の上限については、そう簡単な話ではない。
というのは、拘禁刑のみならず罰金刑もそうだが、刑罰の上限引き上げは、国家による刑罰権の独占に関わる問題だからだ。
この問題については、また別の機会に述べるとしよう。
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