以前、このブログで、明治6年に、「復讐ヲ嚴禁ス(明治六年二月七日太政官布告第三十七號)」という復讐禁止令が発布されたことによって、日本史上初めて国家が刑罰権を独占し、司法権を確立して近代国家になったことを述べた。
ここに国家による刑罰権の独占というのは、国家だけが犯罪者に対して刑罰を科す権限を有するという建前だ。
私人が自分の判断で罰を加えること(私刑・リンチ)は、社会秩序を乱す。また、刑罰は、人の生命・身体・自由を奪う最も強力な行為であって、恣意的に行われてはならない。
そこで、私刑を禁止し、人権保障と法の支配を確立するため、法の適正な手続に基づいて国家のみが刑罰を科すことにしたわけだ。
この国家による刑罰権の独占は、三権分立制によって、三段階に分けて考えることができる。
①立法段階においては、国会が、如何なる行為を犯罪とし、如何なる刑罰を科すかを法律で定める(罪刑法定主義、憲法第31条)。
②司法段階においては、具体的な刑事事件について、事実認定を行い、法を解釈適用して、有罪判決という形で裁判所が刑罰を科す。
③行政段階においては、行政機関が判決に基づいて刑罰を執行する。
憲法学者の中には、憲法第94条が「法律の範囲内」で認めた条例制定権は、その実効性を確保するための罰則設定権を当然に含み、憲法第31条の例外をなすものであるから、罰則設定のため法律による条例への特別の委任規定を必要とせず、地方自治法第14条第3項は、罰則の範囲を「法律」によって示したものだと解する見解もある(憲法直接授権説)。
しかし、地方公共団体は、国とは別法人ではあるが、独立国家ではないし、また、国家による刑罰権の独占は、近代法の大原則であるから、本来、罰則の設定は、国家の事務であって、地方自治権の範囲に属しないと考えられる。従って、憲法第94条の条例制定権には、当然に罰則設定権を含むものではない。
そうであるとすれば、条例中に刑罰規定を設けるには、地方自治法第14条第3項のような法律の委任規定(授権規定)が必要ということになる。
条例は、政令等の法規命令とは異なり、住民代表機関たる議会の議決によって成立する民主的立法であるから、実質的に法律に準ずるものと言える。
従って、条例への罰則の委任は、法規命令への罰則の委任が個別的・具体的委任を必要とするのと異なり、一般的・包括的委任であれば足りると解する(判例同旨)。
なお、ドイツやフランスでは、条例違反に対する制裁制度が微妙に異なるのだが、誤解を恐れずに言えば、文字通りに国家による刑罰権の独占が行われ、自治体は、原則として前科がつかない行政罰を科すことができるだけなのに対して、日本では、条例違反者に対して前科がつく刑罰を科す旨の規定を設けることができる点で、異なる。
地方自治法第14条第3項がGHQの意向により設けられたらしいので、おそらく連邦制を採るアメリカ法の影響を受けているからではないかと思われる。
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