国が滅ぶ <追記>

 Stay homeと言われると、犬扱いされているようで不快な気分になる。単なる要請なのだから、Pleaseを付けろよと思ってしまうのは、いわゆるコロナ疲れなのだろうか。苦笑

 チャールトン・ヘストン主演の不朽の名作映画『ベン・ハー』(1956年)の戦車競走のシーン

 

 さて、緊急事態宣言とその期間延長によって休業を余儀なくされる事業者への経済的支援が不十分であり、このままでは経済が破綻して国が滅ぶかの如き言説が目立つ。

 しかし、経済が破綻し、デフォルト(債務不履行)した国は、2000年以降7カ国(アルゼンチン、ベリーズ、ドミニカ共和国、エクアドル、コートジボワール、ウクライナ、ギリシャ)あるが、いずれの国も滅亡してはいない。経済の破綻は、必ずしも国の滅亡に直結しないということが分かる。

 神武天皇御即位から2680年間、我が国には数多の内憂外患があったが、先人たちの叡智と努力と僥倖によって、我が国は、いまだかつて滅亡したことがない世界で唯一無二の国として歴史にその名を刻み続けている。

 だからこそ国が滅亡する原因とは何かについて、日本史や世界史の授業で教えられることがないし、普段考えたことすらないため、「このままでは経済が破綻して国が滅びるぞ」と言われると、人々は不安にかられてしまうのだろう。いたずらに人々の不安を煽って国内不協和を生じさせんとするデマゴギーには困ったものだ。

 

 我が国において、国が滅亡する原因とは何かについて、かつてない程関心が高まったのは、おそらく幕末・明治ではなかろうか。

 例えば、当時不可能と言われた日露戦争の戦費調達を自ら渡英して成し遂げたり、昭和金融恐慌を沈静化させたりするなど、救国の英雄と呼ぶべき高橋是清(たかはし これきよ)卿は、藩命により13歳でアメリカへ留学したのだが、ホームステイ先に騙されて奴隷として売られ、農園で酷使されていても最後まで肌身離さず持っていたのがエドワード・ギボン著『ローマ帝国衰亡史』だったことから見ても、現代の我々よりも強い危機感を抱いていたことが窺われる。

 ちなみにエドワード・ギボン著・中野好夫訳『ローマ帝国衰亡史』(ちくま学芸文庫)は、全10巻だ。最近の大学では高校の復習をする授業があるそうだから、今の大学生には大部で難解すぎて読み通せない人がいるかも知れない。奴隷としてクタクタになるまでこき使われた幼き高橋是清卿がこれを原書で愛読していたことを知った時の驚きは、今でも鮮明に覚えている。ご本人は、奴隷として売られたことを知らずに、きつい勉強だなと思っていたというのだから、大人物とは凄いものだ!


 西洋では、ローマ帝国崩壊後、国の興亡が目まぐるしいため、ローマ帝国が滅亡した原因は何かという問題に対する関心が高い。研究者によってその原因として挙げられることも十人十色だ。素人考えで恐縮だが、おそらくそれらの原因は相互に排他的なものではなく、複合的に働いて滅亡に至ったのだろうと思われる。

 この点について簡潔に説明した本があればよいのだが、残念ながらない。弓削達著『ローマはなぜ滅んだか』(講談社現代新書)という本があるが、題名だけを見て買った読者は期待を裏切られることになる。本書のあとがきで紹介されているチェインバース編・弓削達訳『ローマ帝国の没落』(創文社歴史学叢書)がこの疑問に答えてくれる現在最良の本だと思う。ご興味のある方は、この本をお読みいただきたい。他の良書と同様に、この本も絶版だが、入手困難というほどではない。


 現代に生きる我々日本人がローマ帝国の滅亡から学ぶべきことがあるとするならば、それは歴史の教訓だ。未来を決して知ることができぬ人間は、過去から己の歩むべき道を知るしかないからだ。

 ローマ帝国滅亡の原因をここで全て網羅的に説明することはできないが、我が国が教訓とすべき原因を2つ挙げることにしたい。


1 まず、ジョンズ・ホプキンス大学教授のテニー・フランク氏によれば、『ラテン碑文集』に収録されている13900の碑文を解析した結果、ローマ帝国を建国した原ローマ人が少数民族に転落し、父祖の霊への正統的信仰が失われて(キリスト教に取って替わられた。)、伝統的な道徳的・政治的迫力が弱体化するとともに、気前よく奴隷解放を行い、属州から来た解放奴隷である異民族に国家の運営を奪われこれを放置したことによってローマ帝国が滅亡したという。

 帝政初期には、原ローマ人である自由人の最良の血統から集められた20から30の軍団が、男盛りの20年間防衛義務の遂行に費やされ、辺境の地で祖国を守るために異民族と戦ったのに対して、奴隷には兵役義務がないために、原ローマ人と奴隷の出生率に格段の差が生じた。そして、気前よく奴隷解放を行った結果、出生率の格差に拍車をかけた。ローマ市生まれの住民の80%〜90%が奴隷である異民族の血統で、貴族(パトリキ)もほとんどが奴隷(異民族)の血統になってしまって、カエサル(英名:シーザー)時代の名門45貴族のうち、約150年後のハドリアヌス帝時代に残っていたのは1家族だけだった。

 つまり、原ローマ人の血統が失われるとともに、偉大なローマ帝国を建国した原ローマ人の特長であった進取・尚武の気風、法と秩序を重んじる道徳的・政治的思想、父祖の霊への正統的信仰等の民族のアイデンティティー(自己同一性)が失われ、退廃的・享楽的な異民族に国家の運営を奪われてしまったことがローマ帝国滅亡の原因なのだ。


→ 例えば、移民の国アメリカですら、ローマ帝国滅亡原因から教訓を得て、様々な制度を設けている。アメリカに住みながら外国籍を保持できる永住権(グリーンカード)と外国籍を失ってアメリカ国民になる市民権を例として見てみよう。

 永住権を取得するには、雇用主又はアメリカ市民若しくは永住権保持者の家族をスポンサーとして申請しなければならず、永住権取得には2〜10年かかるし、10年に一度更新しなければならない。

 これに対して、市民権取得(帰化)はさらに要件が厳しくて、雇用主をスポンサーにして永住権を取得してから5年後以降、家族をスポンサーにして永住権を取得した場合には3年後以降から申請が可能になり、市民権取得まで6〜8か月かかる。指紋の採取、写真撮影、面接、英語やアメリカの歴史・政治制度などに関する簡単なテストにも合格しなければならないし(100問中6割正解で合格。)、移民局による犯歴調査も行われる。そして、忠誠の誓い(Oath of Allegiance )をしなければならない。すなわち、アメリカ合衆国憲法への忠誠の誓い(Allegiance to the United States Constitution)、以前保持したすべての外国への忠誠の放棄の誓い (Renunciation of allegiance to any foreign country to which the immigrant has had previous allegiances.)、国内外の敵からアメリカ合衆国憲法を守る誓い (Defense of the Constitution against enemies "foreign and domestic")、法律が定めた場合、兵役に従事する約束 (Promise to serve in the United States Armed Forces . when required by law (either combat or non-combat))、国家の大事の際、法律が定めた市民としての義務を果たす約束 (Promise to perform civilian duties of "national importance" when required by law.)が宣誓式で厳かに行われる。

 永住権保持者には、選挙権・被選挙権が一切認められていないし、陪審員になることもできない。これに対して、市民権保持者にはこれらの公民権が認められるが、大統領になるには帰化国民ではなく、アメリカ生まれのアメリカ国民であること、または、海外で生まれても両親がアメリカ市民であることが必要とされている。アイルランド系移民、ユダヤ系移民、日系移民という風に、社会生活上ルーツを明らかにする呼称が日常的に行われており、それ自体は差別とはされていない。

 永住権保持者も市民権保持者も、18歳から25歳の男性は兵役登録(セレクティブサービス)をしなければならない。兵役登録後に兵役を拒否すると刑務所へ送られる。

 永住権保持者は、自分の望む職業に就くことができるが、機密を扱うなど国家の安全保障に関わる職業は、アメリカ国家に忠誠を誓った市民権保持者に制限されている。


2 なぜ原ローマ人が少数民族に転落したのかについては、戦争や病気もあろうが、鉛中毒が大きな原因だと考えられる。カリフォルニア工科大学教授のクレア・パターソン氏によると、古代ローマではワイン消費が増加したため、増産のために酒造りが甕(かめ)から樽(たる)に代わり、酒漏れ防止ために樽に鉛の目張りがなされた結果、有機酸と化学反応して鉛が酒に溶け出し、これを飲んだ原ローマ人は鉛中毒になったことが原因でローマ帝国が滅亡したという。

 しかも、当時のワインは発酵しすぎて酸っぱい。鉛は有機酸に溶けると鉛糖という酢酸鉛に化学変化して甘くなるため、ワインを鉛のジョッキで飲んでいたそうだ。さらに、鉛は銅に比べて錆びにくいため、当時の水道管にも鉛が利用されていたので、水道水も鉛に汚染されていたし、食器にも鉛を用いていた。

 鉛中毒の症状としては、精神異常、頭痛、感覚の消失、脱力、味覚障害、言語障害、歩行協調障害、食欲減退、嘔吐、便秘、痙攣性の腹痛、骨や関節の痛み、高血圧、貧血、失明などがある。スエトニウス著『ローマ皇帝伝』(岩波文庫)などを読むと、皇帝たちの中には精神異常者が少なからず出てくるが、皇帝や貴族等の権力者であればあるほど鉛の摂取量が多いので、さもありなん。


→ 我が国ではタバコばかりが目の敵にされているが、国民の目を逸らすためのスケープゴートにされているのではないかと勘ぐりたくなる。喫煙者が大幅に減少しているのに肺癌患者は右肩上がりで増加しているのは、食品添加物や保存料等に原因があるのではないか。

<追記>

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