Prime Minister首相

 私は、自民党の国会議員でもなければ、党員でもないが、明日の自民党総裁選に関心がある。この自民党総裁が事実上次の首相になるからだ。


 英国流の保守主義者である私からすれば、高市早苗氏や小林鷹之氏が私の考え方に比較的近いのだが、小林氏は経験不足だ。


 これに対して、高市氏には、大臣や党の要職の経験があるが、学歴詐称疑惑のある東京都知事の小池百合子氏と同様の胡散臭さがある。


 高市氏がメディアに登場した頃を覚えている。というのは、その発言内容もさることながら、「米国連邦議会立法調査官」「立法調査官」という肩書きが強烈な印象として残っていたからだ。

 のちに鳥越俊太郎氏が経歴詐称疑惑として追及した。

 詳しい説明は、下記の記事に譲るが、高市氏の弁明では疑惑を完全に払拭できておらず、私の中ではいまだに胡散臭さが消えない。高市氏の政治的言説には好感が持てる部分があるだけに残念だ。

高市早苗総務大臣の経歴に「印象操作」発覚!『米国議会の立法調査官』の肩書は初当選した93年以来使用していない、という説明に偽りあり! | IWJ Independent Web Journal

 合計975万円もの「闇ガネ」疑惑を報じられた高市早苗総務大臣に、今度は、経歴にまつわる「黒い噂」が浮上している。いや、正確には、「再浮上」と言うべきかもしれない。 ネット上で今話題になっているのは、高市大臣の「議会立法調査官」という肩書が、実は「コピー取りやお茶くみ程度」の仕事だった、というものだ。 「噂」が最初にメディアで報じられたのは、高市氏が初めて衆議院議員総選挙に出馬した1993年のこと。1993年9月4日号の『週刊現代』は、次のように報じていた。 「『立法調査官まで務めた米国帰りの才女』の看板に異議あり! 高市早苗代議士の華麗な経歴は"誇大広告"だった」 これに対し、高市氏側は猛抗議。当時、高市氏が世話になっていたという米国下院議員の広報担当者が書いた「証明書」を突きつけて、「誇大広告」という報道を否定した。 その後も、『噂の真相』が1994年2月号、1998年7月号などで、繰り返し高市氏の経歴を「誇大広告」と報じてきたが、いつしか高市氏の経歴問題は下火になっていった。 高市氏の初当選から23年が経った。今、高市氏は総務大臣として、安倍内閣の重要な一角を担っている。 民意を無視した暴走が目立つ安倍政権にあって、高市大臣は放送局の「電波停止」の可能性までにおわせる、メディアへの圧力とも言うべき発言を口にした。 「高市総務相、電波停止に言及 公平欠ける放送に『判断』」(2016年2月9日 朝日新聞) 高市大臣の属する自民党は、憲法改正草案を掲げているが、そこには言論・報道の自由に対して「公の秩序」の名のもと、制約を課すことが堂々と明記されている。高市大臣のメディアに対する高飛車な姿勢は、与党全体の姿勢の現れでもある。 自民党、公明党、おおさか維新の党ら改憲派の政党が、この夏の参院選で3分の2以上の議席を獲得すれば、「緊急事態条項」が創設され、日本は内閣総理大臣の一存で国民の人権を無制限に制約することのできる超強権的な全体主義国家へと、変貌していく危険性がある。 よくよく考えてみていただきたい。国民の基本的人権を制約するなど、どんな強権的な権力者にも許されざる暴挙であることは言うまでもない。そもそもこの国の権力の座にある者たちは、国の根幹を規定する憲法を変える「資格」があるのだろうか?

IWJ Independent Web Journal

 ところで、日本では、戦後、日本国憲法によって議院内閣制が採用されたのだが、Prime Ministerプライム・ミニスター「首相」という肩書き自体は、日本の方が英国よりも先だったと言うと、驚かれるかも知れない。

 Prime Ministerという肩書きが正式に用いられたのは、エドワード7世の1905年(明治38年)であるのに対して、伊藤博文が初代首相になったのは、1885年(明治18年)だから、日本の方が英国よりも20年早かったわけだ。


 このPrime Ministerは、もともとSir Robert Walpole ロバート・ウォルポール卿(1676年8月26日 - 1745年3月18日)に対する悪口だった。

 ウォルポールは、Prime Ministerと呼ばれることに立腹し、自分をFirst Ministerファースト・ミニスターと言っていた。


 なぜPrime Ministerが悪口なのか?

我々日本人にはちょっと分かりにくいので、少し説明する。


 1714年、Stuartスチュアート家のAnneアン女王が亡くなり、ドイツのHanoveハノーバー家のGeorge Iジョージ1世が英国の王位を継承したのだが、この国王ジョージ1世は、英語がまったく話せないし、また、政治に無関心だったため、大臣の会議に出席せず、全幅の信頼を寄せたウォルポールに政務を任せきりにした。

 その結果、「君臨すれども統治せず」の慣習法が確立し、ウォルポールは、実質上の初代Prime Ministerとなった。


 ministerは、ラテン語minister「奉仕者」「下僕」が語源であって、対義語は、ラテン語master「主人」だ。

 そこで、英語ministerは、主イエス・キリストに仕えるしもべ=「牧師」、主君に仕えるしもべ=「大臣」という意味で用いられるようになったわけだ。

 本来、mini小さい+ster者なので、直訳すれば、「小臣」ということになるが、我が国では律令制を前提に「大臣」と意訳されている。


 primeは、ラテン語primus「初めの」「第一の」「最初の」が語源だ。そこで、primeは、「最初の」「主要な」「最高の」という意味で用いられるようになった。

 テレビCMでよく見かけるAmazon Prime Videoは、アマゾンが配信する最高のビデオという意味で名付けたのだろう。


 前述したように、ウォルポールは、国王ジョージ1世から全幅の信頼を寄せられ、政務全般を任されたので、「国王陛下からの寵愛(ちょうあい)を一身に受けているなんて、許せない!」と他の大臣たちから嫉妬された。男の嫉妬ほど醜いものはない。

 そこで、「最高の」寵愛を受けている大臣、国王陛下の「一番の」お気に入り大臣ということで、Prime Ministerと悪口を言われたのだ。

 これに腹を立てたウォルポールは、「いやいや、私は、first among equals同輩中の首席にすぎません」と謙遜して、First Minister「首席大臣」「第一大臣」と自称したわけだ。


 さて、明日、自民党総裁に選ばれた人がPrime Ministerとして、語源通り主権者たる国民に奉仕し、国民から最高の寵愛を受ける大臣であってほしいものだ。


 




 

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