「保証」と「保障」

1 法律学における「保証」と「保障」

 法律学を学び始めた頃に戸惑った言葉の一つが「保証」と「保障」だ。


 「保証」とは、一定の債務が履行されない場合に、その債務を主たる債務者に代わって履行する義務を負うことをいう(ex.民法第446条第1項)。


cf.1民法(明治二十九年法律第八十九号)

(保証人の責任等)

第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。

2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。


 これに対して、「保障」とは、相手方の地位、立場、権利利益等に保護を与え、これに対する侵害から防護し、保全することをいう(ex.憲法第21条第1項)。


cf.2日本国憲法(昭和二十一年憲法)

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する

② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。


 このように民法では「保証」が、憲法では「保障」が、それぞれ区別して用いられているのだが、なぜなのだろうか。


 そんなことに拘るから、お前は馬鹿なんだと嘲りを受けそうだが、気になったのだから仕方がない。教科書を見ても載っていないし、誰も教えてくれないから、学生時代に自分で調べて考えてみた。

 今も学生時代に考えたことと変わらないが、間違っていたらお許しいただきたい。


2 「保証」と「保障」の本来の意味

 「保証」と「保障」は、古来より用いられており、その本来の意味も全く異なる。


 すなわち、「保証)」の本来の意味は、保人と証人を意味する。保人(ほにん)は、律令制において、売買や出挙(すいこ。利子付貸付のこと。)債務の保証人を意味し、証人は、あかしをたてる人、事実を証明する人を意味する。


 これに対して、「保障」の本来の意味は、「保」が小城で、「障」が砦(とりで)なので、城塞(じょうさい)を意味する。

 保障が城塞の意味だというのは、意外だった。


3 英語の「保証」と「保障」

 実は、法律学の「保証」と「保障」は、英語(又はドイツ語)の翻訳語なのだ。


 すなわち、英語の guarantee、 warranty、suretyの翻訳語が「保証」だ。

これに対して、英語のguarantee、securityの翻訳語が「保障」だ。


※  guarantee(原義は、「責任を持って保護する」だ。)は、ドイツから直接イギリスに入った言葉で、warrantyは、guaranteeがドイツからフランスを経由する過程で変化してイギリスに入った言葉で、guaranteeと同じ言葉だ。

※  suretyもsecurityも、ラテン語securitas(原義は、「心配しなくていい状態」だ。)に由来する。


 このように英語(ドイツ語でも同じ。)では「保証」と「保障」を区別することなく、同じ言葉で表現しており、明治時代に、文脈に応じて「保証」と「保障」に訳し分けたのだ


 元来「保証」には保人という意味があるから、guarantee、 warranty、suretyを「保証」と訳したのは、当然と言えば当然だろう。

 しかし、本来、城塞を意味する「保障」をguarantee、securityの翻訳語に当てたのはすごいと思った。

 「保障」は城塞を意味し、侵害から保護するのが城塞であること、「保証」と同じ「保」から始まる同音異義語だから、「保障」と訳したのだろう。センスの良さに脱帽だ。


4 なぜ英語の「保証」と「保障」が同じなのか

 ただ、前述したように法律学の「保証」と「保障」は、全く意味が異なるのに、なぜ英語では「保証」と「保障」が同じ言葉で表現されるのかがいまいちピンとこない人もいると思う。

 それは、おそらく「法の支配」が分かっていないからだと思う。

 

 英国では、「国王は何人の下にもあるべきではない。しかし神と法の下にあるべきである」として、国王といえども法に従わなければならないと考えられている。これを「法の支配」という。

 この法の支配にいう「法」は、国王(国家)の干渉を排除ないし制限することにより国民権(自由権)を保障する良き古き法慣習法)に他ならない。

 

 このように法の支配を正しく理解し、下記のように図解にすると、英語では「保証」と「保障」が同じ言葉で表現されている理由がよく分かると思う。

 いずれも、債権や国民権が保護されて心配しなくてよい状態になる点で同じなのだ。


 このような説明をしている憲法学者は一人もいないから、答案やレポートに書いて「不可」を貰ったとしても責任を負わないので、悪しからず。


 気分転換に、1961年にヒットしたBen E. KingのStand by Me、1972年にヒットしたGilbert O'SullivanのAlone Again、1979年にヒットしたJ.D. Souther のYou're Only Lonelyを続けてどうぞ♪

 最近の歌は知らないけど、周期的に孤独を歌った曲がヒットする傾向があるように思う。



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