法規命令について、以前にこのブログで触れたこと以外にも、最近の教科書には触れられていないためだろうか、盲点になっているのではないかと思われることがある。
委任命令の形式的効力だ。
まず、成文法の形式的効力について、簡単におさらいしておく。
成文法は、各法形式ごとに階層的に位置付けられ、階層によってその効力の優劣が決まる。これを成文法の形式的効 力という。
二種類以上の法形式の所管事項が全く競合しない場合には、両者の間で規定内容が矛盾抵触することがない ので、両者の形式的効力の優劣が問題になることはない。
つまり、成文法の形式的効力の優劣が問題になるのは、二種 類以上の法形式の間に所管事項の競合がある場合(競合的所管事項)に限られるわけである。
成文法の間に上下関係がある場合には、上位法は下位法に優越し、上位法に抵触する下位法は効力を有しない(形式
的効力の原理、憲法第98条第1項参照)。
さて、昭和54年に発行された林修三『法制執務』学陽書房23頁・24頁は、所管事項の委任と形式的効力との関係について、次のように述べている。
「たとえば、法律が、その所管事項の一部を下位の法令である政令や府令、省令に委任した場合、あるいは条例が、その所管事項の一部を長の規則や委員会の規則に委任 した場合、その委任した事項が、特定の人、地域または事項に関し、その法律(条例)の他の規定または他の法律(条例)の規定の適用を排除し、これに代るべき例外規定を定めることまでも含んでいるときは、その委任に基づき制定された政令、府省令あるいは規則の規定は、その委任事項の範囲内に関する限 り、上位の法形式である法律または条例と同等の形式的効力をもち、場合によっては、後述の後法優越の原理または特別法優先の原理に従って、法律または条例の特定の規定に優越する効力をもつことになるのである。
この場合、委任命令の規定がこのような効力をもつのは、母法である法律または条例が、他の法律または条例の規定の適用を排除できる旨を特に規定していることによるもので、特に、これを形式的効力の原理の例外とまでいう必要もないかも知れないが、いずれにしても所管事項の委任があったときは、その委任の内容に従って右のような問題が出てくるのである。」(太字・下線:久保)
要するに、法律(条例)が例外規定を定めることを政令等の命令(規則その他の規程)に委任した場合には、その委任の効果として、当該委任命令は、上位の法形式である法律(条例)と同等の形式的効力を有し、同順位になるので、その間の矛盾抵触は、形式的効力の原理ではなく、特別法優先の原理や後法優先の原理により解決され、当該委任命令の規定が優先適用されることになるわけだ。
会計法第8条や自衛隊法第106条第2項のように、法律の中には、「政令で特例を設けることができる」や「政令で特例を定めることができる」という表現を用いて、例外規定を定めることを委任している規定が少なからずある。この場合の政令の規定は、法律と同順位の特別法として優先適用されることになる。
ところが、条例が規則その他の規程に例外規定を定めることを委任するケースは、意外に少ない。ひょっとしたら盲点になっているからかも知れない。
この場合の規則その他の規程の規定は、条例と同順位の特別法として優先適用される。
cf.1会計法(昭和二十二年法律第三十五号)
第八条 歳入の徴収の職務は、現金出納の職務と相兼ねることができない。但し、特別の必要がある場合においては、政令で特例を設けることができる。
cf.2予算決算及び会計令(昭和二十二年勅令第百六十五号)
(歳入徴収の職務と現金出納の職務とを兼ねることができる場合)
第三十条 会計法第八条ただし書の規定により歳入徴収の職務と現金出納の職務とを兼ねることができる場合は、歳入徴収の職務を行う在外公館の長、財務事
務所長、税務署長、地方裁判所の支部、家庭裁判所の支部若しくは簡易裁判所の職員、地方検察庁の支部若しくは区検察庁の職員、財務局出張所長、福岡財務
支局出張所長、財務事務所出張所長、税関支署長、税関出張所長、税関支署出張所長、税関支署監視署長、森林管理署長若しくは森林管理署支署長(これらの
者の代理をする職員を含む。)又は同法第四十六条の三第二項の規定により歳入徴収の職務を行う者の事務の一部を処理する職員が現金出納の職務を兼ねる場
合とする。
cf.3自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)
(火薬類取締法の適用除外)
第百六条 火薬類取締法(昭和二十五年法律第百四十九号)の規定は、同法第五十七条の三の規定にかかわらず、第二条から第四条まで、第七条、第九条第一項及び第二項、第十条から第十三条まで、第十四条第一項、第十五条、第二十条第二項、第二十七条の二、第二十八条、第三十条第一項、第三十一条第一項、第三項及び第四項、第三十二条、第三十三条第一項及び第三項、第三十五条、第三十九条第一項、第四十六条第二項並びに第五十条の規定を除き、自衛隊の行う火薬類の製造、貯蔵、運搬、消費その他の取扱については、適用しない。
2 自衛隊の行う火薬類の製造、貯蔵、運搬、消費その他の取扱についての火薬類取締法(前項の規定により適用を除外される規定を除く。)の適用については、政令で特例を定めることができる。
3 防衛大臣は、第一項の規定にかかわらず、自衛隊が取り扱う火薬類について、火薬類取締法及びこれに基く命令の規定に準拠して製造、貯蔵、運搬、消費その他の取扱に関する技術上の基準を定め、その他火薬類に因る災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない。
cf.4自衛隊法施行令(昭和二十九年政令第百七十九号)
(火薬類取締法の適用の特例)
第百四十五条 自衛隊の行う火薬類の製造、貯蔵、運搬、消費その他の取扱いについての火薬類取締法(昭和二十五年法律第百四十九号)の規定(法第百六条第一項において適用を除外されているものを除く。)の適用については、次の表の上欄に掲げる火薬類取締法の規定の中欄に掲げる字句は、それぞれ当該下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。 ただし、火薬類取締法第五十条第一項に係る部分は、陸上自衛隊の使用する船舶(水陸両用車両を含む。)及び海上自衛隊(防衛大学校を含む。)の使用する船舶以外の船舶については、適用がないものとする。
(以下、省略:久保)
cf.5福岡市準用河川に設ける河川管理施設等の構造の基準を定める条例( 平成25年3月28日 条例第10号)
(径間長)
第52条第3項 河道内に橋脚が設けられている橋、堰せきその他の河川を横断して設けられている施設に近接して設ける橋の径間長については、市長がこれらの施設の相互の関係を考慮して治水上必要と認める範囲内において規則で特例を定めることができる。
cf.6 福岡市準用河川に設ける河川管理施設等の構造の基準を定める条例施行規則 (平成25年3月28日 規則第85号)
(近接橋の特例)
第18条 条例第52条第3項に規定する河道内に橋脚が設けられている橋、堰その他の河川を横断して設けられている施設(以下この項において「既設の橋等」という。)に近接して設ける橋(以下この条において「近接橋」という。)の径間長は、条例第52条第1項及び第2項に規定するところによるほか、次の各号に定めるところにより近接橋の橋脚を設けることとした場合における径間長の値とするものとする。ただし、既設の橋等の改築又は撤去が5年以内に行われることが予定されている場合は、この限りでない。
(1) 既設の橋等と近接橋との距離(洪水時の流心線に沿った見通し線(以下この項において「見通し線」という。)上における既設の橋等の橋脚、堰柱等(以下この項において「既設の橋脚等」という。)と近接橋の橋脚との間の距離をいう。次号において同じ。)が基準径間長未満である場合にあっては、近接橋の橋脚を既設の橋脚等の見通し線上に設けること。
(2) 既設の橋等と近接橋との距離が、基準径間長以上であって、かつ、川幅以内である場合にあっては、近接橋の橋脚を既設の橋脚等の見通し線上又は既設の橋等の径間の中央の見通し線上に設けること。
cf.7東京都非常勤職員の公務災害補償等に関する条例(昭和四二年一二月二三日条例第一一四号)
(船員である職員の特例)
第二十四条の二 船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条に規定する船員である職員に係る補償につき特例を設ける必要がある場合においては、東京都規則で特例を定めることができる。ただし、その特例は、この条例の規定の趣旨に適合するものでなければならない。
cf.8 東京都非常勤職員の公務災害補償等に関する条例施行規則( 昭和43年4月6日規則第83号)
(船員である職員の特例)
第七条の四 船員に係る条例第六条第二項の規定による療養の範囲は、同項に規定するもののほか、自宅以外の場所における療養に必要な宿泊及び食事の支給で療養上相当と認められるものとする。
(第7条の8まで特例が定められている。以下、省略:久保)
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