2024.09.29 13:15名裁きから学ぶ先人の智慧 <追記> 旧約聖書のソロモン王の裁判が、シルクロードを通って、1211年支那(シナ)の桂万栄(けい ばんえい)編『棠陰比事(とういんひじ)』の黄霸𠮟姒(こうはしっし)を経て、江戸時代の日本に伝わり、大岡政談に翻案されたというのが有力説だ。 私は未読なのだが、滝川政次郎『裁判史話』(乾元社)によると、大岡政談は、ソロモン王の裁判が起源で、16、17世紀に来日した宣教師によって伝えられた、と主張しているそうだ。あり得るルートだが、だからといって支那経由ルートを否定することはできまい。 有名な名裁きだとはいえ、旧約聖書や棠陰比事を読んだり、講談や時代劇を見たりする若い人は、あまりいないかも知れないので、長くなるが、とりあえず引用してから、話を進めることにしよう。①...
2024.09.27 03:50法律に息づく孔子の教え 日本の法律に孔子の教えが息づいていると言ったら、驚かれるかもしれない。『論語』子路篇第十三に大変有名な章句がある。ここに示された孔子の教えが様々な法律に反映しているのだ。【原文】葉公語孔子曰、吾黨有直躬者、其父攘羊、而子證之。孔子曰、吾黨之直者異於是、父爲子隱、子爲父隱、直在其中矣。【読み下し文】葉公(しょうこう)孔子(こうし)に語(つ)げて曰(いわ)く、吾(わ)が黨(とう)に躬(み)を直(なお)くする者(もの)有(あ)り、其(そ)の父(ちち)羊(ひつじ)を攘(ぬす)み、而(しこう)して子(こ)之(これ)を證(しょう)す。孔子(こうし)曰(いわ)く、吾(わ)が黨(とう)の直(なお)き者(もの)は是(これ)に異(こと)なり、父(ちち)は子(こ)の爲(た...
2024.09.10 13:57内政干渉 アングロ・サクソンの英国と米国は、傲慢で自己中心的で交渉過程は厳しいが、一旦約束(契約、条約)した以上は、約束を守る点で、日本にとって世界で唯一信頼に足る国だと言って過言ではない。 さて、英国のジュリア・ロングボトム駐日大使は、「死刑制度を続ける日本は北朝鮮やシリアと同じ」だと述べたそうだ。
2024.05.21 21:15前代未聞 下記の記事によると、「横浜市立学校の教職員による児童生徒への性犯罪事件の公判で、市教育委員会が多数の職員を法廷に動員し、第三者の傍聴を妨げていたことが分かった。11回の公判で延べ525人に動員を命じ、実際に大半が傍聴に訪れていたという。市教委は21日に会見を開き、被害者の特定を防ぐ目的だったと強調した上で、対応を改めると釈明。「裁判公開の原則」をうたう憲法に反するとの指摘に対しては言及を避けた。」 「一方、被害者が市立学校の児童生徒でも、加害者が市の教職員ではない事件の公判については動員をかけていないことも判明したが、曖昧な説明に終始した。」
2022.05.30 03:50罪を憎んで人を憎まず 「罪を憎んで人を憎まず」というフレーズを時々見聞きすることがある。「罪は憎むべきだが、その罪を犯した人まで憎むべきではない、ということ」を意味する(『故事成語を知る辞典』小学館)。 天邪鬼(あまのじゃく)な私には、これがよく分からなかった。犯人を憎むことは、人間の心情として当然であって、犯人を憎まずに犯罪を憎めと言われても、犯罪が犯人とは無関係に単独で存在しているわけではないから、犯罪だけをどのように憎めば良いのだろうかと甚だ疑問だったからだ。 ところが、学生時代に刑法総論の講義で、刑罰の対象としての犯罪の意味をめぐる客観主義と主観主義の対立を習った際に、「罪を憎んで人を憎まず」を客観主義のことだと思えば、なんとなく分かるような気がした。 すなわち、...
2022.02.22 14:00「裁」その2 裁判所の地図記号。 国土交通省国土地理院によると、「裁判所の記号は、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所や簡易裁判所をあらわします。最高裁判所は名前であらわしていて記号は表示しません。 この記号は、むかし裁判所が裁判の内容などを立て札(たてふだ)を立てて知らせていたことから、立て札の形を記号にしました。」とある。
2022.02.20 23:50「裁」その1 「裁判所職員のバッジは,八咫の鏡をかたちど り,中心に裁判所の「裁」の字を浮かした形を しています。鏡が非常に 清らかで,はっきりと, 曇りなく真実を映し出す ことから,八咫の鏡は, 裁判の公正を象徴するも のと言われています。」https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/210003.pdf 三種の神器の一つである八咫(やた)の鏡がモチーフになっているのが、政教分離の原則から興味深い。 裁判所のHPで裁判所職員のバッジの根拠規定を検索しても出てこなかったのだが、山中理司弁護士が情報開示請求をなさった結果、開示されていた。 裁判官その他の裁判所職員のバツジに関する規程(昭和24年最高裁判所規程第1号)
2021.04.26 09:20江戸時代の民事裁判 <追記あり> 江戸時代の民事裁判の概要については、すでにこのブログで触れた。昔の教え子から、もう少し知りたいというメールがあった。教師の職業病で、こういうリアクションがあると妙に張り切ってしまうのだが(苦笑)、ご要望に応えてお話ししようと思う。一部重複する部分があるが、ご容赦願いたい。
2021.04.23 23:24江戸と大坂の債権回収の違い 私人(民間人のこと。)の場合には、債権を行使するかどうか(ex.借金を返せと請求するかどうか)は、自由だ。 これに対して、地方公共団体の長は、金銭の給付を目的とする地方 公共団体の債権について、その督促、強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置をとらなければならないとされている(地方自治法第 240 条第 2 項、地方自治法施行令第 171 条~第 171 条の 4)。逃げ得を許さず、必ず取り立てる必要があるからだ。 しかし、実際には、地方公共団体は、債権回収に必ずしも熱心ではなかった。地方公共団体の長(知事・市町村長)が債権回収に積極的に取り組んでも、必ずしも票に結び付かないし、むしろ厳しい取り立てをすると、不評を買って落選する可能性もある...